ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

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〈イベントレポート〉社会課題を解決する「マーケットデザイン」 〜 世界をリードする経済学者の”being”と社会変革〜

社会課題を解決する「マーケットデザイン」 〜 世界をリードする経済学者の”being”と社会変革〜SENDAI SOCIAL INNOVATION NIGHT イベントレポート

【日程】2020年10月29日(木)

【時間】21:30〜22:45  *アメリカ西海岸と繋ぐ関係で、日本時間深夜の開催となりました。

【ゲスト】

小島武仁 様

東京大学経済学部教授、東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)所長

1979年生まれ。2003年東京大学卒業(経済学部総代)、2008年ハーバード大学経済学部博士。イェール大学(博士研究員)、スタンフォード大学(助教授、准教授、教授)などを経て2020年より現職。

専門分野は人と人や人とモノ・サービスを適材適所に引き合わせる方法を考える「マッチング理論」と、それを応用して社会制度の設計や実装につなげる「マーケットデザイン」。日本の研修医マッチング制度や待機児童問題を改善する具体的な方法の発明などで知られる。多くのトップ国際学術誌に論文を多く発表し、受賞多数。最も生産性の高い日本人経済学者とされている。また、大学内外との連携も積極的に行っている。

受賞歴:
(国内)日本経済学会中原賞、学士院奨励賞、学術振興会賞、円城寺次郎賞(日経)、宮澤賢一記念賞(公正取引協会)、大内兵衛賞・総代(東京大学)など
(海外)Social Choice and Welfare Prize, Economic Theory Fellow, Sloan Research Fellow, SIEPR Fellow, Presidential Scholarship (Harvard University), etc.

【モデレーター】

竹川隆司

一般社団法人IMPACT Foundation Japan代表理事

国際基督教大学卒業。野村證券を経て、2006年ハーバードビジネススクールでMBAを取得。その後野村ロンドン勤務ののち2008年に独立、日米で起業を経験。東日本大震災をきっかけに活動拠点を日本へ戻し、2014年「東北風土マラソン&フェスティバル」立ち上げ、2016年INTILAQ東北イノベーションセンター設立などを主導。現在zero to one代表取締役、仙台市総合計画審議会委員なども務める。

【トーク内容】

竹川:小島さん、本日は宜しくお願い致します。

小島さん:宜しくお願い致します。

竹川:それでは早速お話をお伺いしてもよろしいでしょうか。

小島さん: はい、ありがとうございます。私は経済学者で、専門はマーケットデザインをやっています。大学の卒業まで日本にいて、ハーバードの博士号を取った後、アメリカに10年ちょっといまして、今年の9月から東大に着任して日本に戻ってきました。

さて、マーケットデザインと言いましたが、私は研究の分野でいうとマッチング理論というのをやっていて、それをマーケットデザインという制度設計に応用していこうということをやっています。

世の中のいろんな問題はマッチングの問題として捉えることができます。例えば就職活動は企業と学生、入試は学校と学生をどのように組み合わせるか、その他にも結婚とか保活とか人生の色々な問題は、何かしら物とか人と人を組み合わせるマッチング問題と捉えることができます。

そういった問題に対して、マッチング制度の設計者として、いかに適材適所に人や物を組み合わせるか、そういうことを研究しています。

近年では、机上の空論ではなくて社会実走まで踏み込んでやってみたら面白いのではないか、また社会実走まで踏み込んでやることで世の中もよくなるかもしれないという考え方が盛り上がってきまして、そういう活動の一連を指してマーケットデザインと呼んでいます。

社会実走をするのにマッチング制度の設計者として我々は具体的にどういうことをするべきか?

大きく2つに分けられます。第1はマッチングのためのデータをしっかりとるところから始めます。例えば就活生の場合、具体的にあなたの第一希望はどこですか?第二希望はどこですか?というようなことをしっかり聞きます。しっかり聞くことで、適材適所なマッチングのためのデータを取ることができます。

2つ目にそのデータをある種の決まったルール、いわゆるコンピューターでいうところのアルゴリズム、計算手順を作って、明確に定められたルールに従って、望ましいマッチングを見つけていきます。

例えば日本の保育園はある種のアルゴリズムを使っていますよね。保活をしている親御さんに対して第一希望の保育園はどこ、第二希望の保育園はどこというのを逐一聞いて、ある種の決まった優先順位に従って入園決定をしている。こういうのをイメージしていただければいいかと思います。

とはいえ、世の中には色んなアルゴリズム、ルールがあり得るわけですよね、保活の場合だったら自治体が定めたルールに従って入園決定をしていきますが、ではどういうルールを使えばいいのかということころですが、非常にありがたいことに我々の業界で素晴らしい奇跡のようなアルゴリズムを見つけた人がいます。

名前は「ゲール・シャプレーアルゴリズム」といいまして、ゲールさんとシャプレーさんふたりの研究者が開発したものです。非常によくできたアルゴリズムで、シャプレーさんの方は、2012年にノーベル経済学賞を受賞しています。

ノーベル賞のお墨付きみたいなアルゴリズムですが、少なくともここに書いてある3つの良いところがあります。

ひとつ目はマッチング設計者の目的というのは、みんなが幸せになるような適材適所の配置をすることなわけですけれども、このアルゴリズムに従って希望を処理していくと確かに必ず望ましい結果を出力できるということが数学の定義として知られています。

この望ましいということは何かというと、いわゆるミスマッチがないという状態です。ミスマッチの状態というのは、例えば就活生が就職することになった会社は実はあんまり好きじゃなくてほんとは他の会社に行きたかったとか、会社の方もほんとは別の学生に来てほしかった、みたいな状態ですね。そういうミスマッチが一切なくなるような結果をちゃんと探すことができるという性質があります。

更に、例えば本当は東北大学に行きたいんだけど、日本だと国立大学は1校しか希望できないので、東北大学は偏差値が高すぎて無理かもしれないから、あえて第二希望の入りやすいところに応募しようみたいなことを考えるわけですけれども、このアルゴリズムを使うとそういうことを一切考えないで、正直に自分の希望を言うだけで自分にとって一番望ましい結果が出ることも知られています。

こういうですね、自分の希望を表明する際に迷うことがないっていう素晴らしい性質があります。それによって参加者は余計な心配をすることなく安心してその制度に参加することができます。

こういう仕組みを実走する時にコンピューターを使うとめちゃくちゃ簡単に実走することができます。規模感で言うと1回のマッチングで大体1万人とか10万人の人たちを普通のパソコンで、1秒とか2秒とか、そういうレベルで計算結果を出すことができます。

さっき保活の話をしましたが、1000人とか1万人のお子さんを保育園に入れていくのを手作業でやりますと、だいたい数人から10人ぐらいの職員の方が1週間以上かけていかなければいけないと思うんですね。そういった貴重な人材の人件費を節約することができます。

こういう話を色々しているとですね、本当にこんなものが使えるのか、机上の空論なんじゃないかと当然気になると思いますが、実はいろんなところで使われているという話をしたいと思います。

一番有名な例で、アメリカの研修医の話をしたいと思います。研修医というのは医学部を卒業した医学生の方が最初に就くファーストジョブのことです。最初それぞれバラバラにやっていたところ、ミスマッチとか青田買いが非常に横行したと言われています。

医学部卒業のだいたい2年ぐらい前には、どこの病院に行くか決まっている。そうすると20代の若い方は2年も経つと人生の状況が変わっているわけで、ミスマッチが起きてしまうという問題がありました。

そこで医療業界と相談した結果、1950年からゲール・シャプレーのアルゴリズムを導入することになりました。

その後少々変更が加えられたものの、現在に至るまで基本的に同じものが使われています。70年間も同じ制度が使われ続けるということはなりすごいことだと思います。これは実際に大成功して世界中の研修医のマッチングで使われていて、日本でも2003年から導入されて現在に至るまで使われています。

とは言っても、研修医の就職活動はずいぶん特殊なマーケットなので、別の話をしますと、企業内人事でも使われています。有名どころでいうとグーグルの人事異動で2015年から使われていますね。

他に九州大学の例だと学生さんをどこの研究室に配属するかとか、それから変わったものでいうとアメリカの軍隊で部隊に配属する際に使われることが決定したということを聞いています。企業に限らず、組織の人事っていうのは相性が良いんじゃないかなと考えています。

特に大学の入学にはかなり使いやすいと思われます。日本では大学入試を学生と学校がバラバラにやっていて、アルゴリズムで助けることをやっていませんが、世界を見てみるとここに挙げた国では学生の希望をアルゴリズムで処理しています。

もうひとつ、ニューヨークの高校入試というのが大規模な成功例として知られています。ニューヨークの公立高校では、だいたい年間9万人ぐらいの学生さんを市内の高校に配属するのですが、2000年度の前半ぐらいまで9万人いる学生のうち3万人が希望する学校のどこにも入れず大混乱していたんですが、最終的には市の職員がどうにかがんばって、無理やりどこか見つけるということをしていたんですね。

それを経済学者がチームに入ってゲール・シャプレーのアルゴリズムを導入したところ、どこにも行けない人がいきなり10分の1の3000人まで減少したという成功例があります。結果としてこれが色んなアメリカの街に広がっていきました。

その他の例では臓器移植、例えば腎臓病の患者さんにどういうふうに限られた臓器を配分していくかっていう問題についてアルゴリズムが大活躍しています。

こういうことに色々使えることがわかったと。そうすると逆に研究者はもうやることないんじゃないかっていう心配が当然の疑問としてあると思います。今の制度があるからそれでもう新しいイノベーションはないだろうとお考えかと思いますが、社会が変わってくるに従って、新しい社会問題が出てくるので、それを解決していくためには新しい制度設計というのがどうしても必要になってきます。一例を挙げさせていただきます。

私は学者ですけれども、実は私の妻も学者で、2人で仕事を探さなきゃいけないっていう問題に直面しました。私は東大に9月に着任したんですが、妻の仕事が東京大学で見つかったのが大きな理由になりました。

これは別に私達の特殊な話ではなくて、いわゆる共働き世帯が増加して2人の仕事をどうやってうまく見つけていくかっていうことは、社会のいろんなところで問題になるかと思います。

例えば現状で先ほどお話したアメリカの研修医だとマーケットに出る研修医のだいたい5%から10%が同学年の医学部の学生さん同士で一緒のタイミングで仕事を探すってことがあります。

当然のことながらカップルは一緒に住みたい、もしくはせめて近くに住みたいっていうことがあるものの、アメリカはめちゃくちゃでかい国ですので、そういうことを非常に気にするわけですね。

当初、ゲール・シャプレーアルゴリズムは、単身者を前提に制度設計をしていました。というのも、1950年当時は基本的に男性しかお医者さんになっていなかったという事情もありましたが、単身者が前提の制度設計だとうまくいかないっていう問題が出てきます。

どうしたかって言いますと、ロスっていう経済学者が90年代の中頃に開発したアルゴリズムが現在まで使われています。基本的にはゲール・シャプレーのアルゴリズムなんですけども、どこを変えたかったかっていうと、カップルの希望をちゃんと聞くことにしました。

具体的には、まず私たちはカップルだよっていうことを宣言することを許します。その上で、バラバラに希望を聞くのではなくて、2人が行きたい第一希望はこことここのペアです、第二希望はこっちの病院とこっちの病院のペアですっていうふうに聞くことにしました。

実はこれを作った当初は理論的に100%うまくいくことが保証できないと理論的には知られていたんですが、15年ぐらい経って私と、これを作ったロスともう1人の研究者の3人で研究したところ、このデザインを使うと、ほぼ100%望ましい結果がでるっていうことを証明しました。

また「保育園落ちた日本死ね!!!」っていうブログが4年ぐらい前に話題になりましたが、保育園は今でも非常に大きな問題だと思います。日本の保育園は自治体が主催して、親御さんから希望を聞いて、優先順位を突き合わせてマッチしていくというようなシステムになります。

改善点のひとつは現状でもほとんどの自治体では基本的に手作業でやっているため、大変時間と手間がかかるので、そこをコンピューター化するということがあると思います。

もうひとつの問題として、実は保育園は年齢別の定員と需要の間にずれがあることが非常に多いです。現状では、4月時点の年齢で募集をかけるんですけども、蓋を開けてみると0歳1歳2歳の枠は全部埋まっちゃったけど3歳4歳5歳の枠は結構空いてるみたいな例がかなり多いんですね。

そうすると3歳4歳用にあてがっていた先生とかスペースが無駄になる可能性があります。自治体によっては余ったスペースをどう使うかということにかなりの手間がかかってミスマッチもおきるということになります。

私自身の研究では、そもそも硬直的に年齢別の定員をがちがちに決めてしまうとことに問題があるわけで、希望に照らしてアルゴリズムで自動的に調整してしまえば、手間もかからないし無駄も起きないということを発見しました。

これは山形市のデータですが、マッチ率を見ると新しい方式を使うことでアンマッチになってどこにも行けない子どもが減少するということがわかりました。

というわけで私はマッチング理論を研究していて、それをどうやって社会に使っていくかということに特に興味があります。今回東京に戻ることになりまして、特に日本の制度、保育園や地域医療のマッチング問題に非常に興味があるので、今後も社会実走に挑んでいきたいと思っています。

竹川:小島さん、本日は貴重なお話ありがとうございました。

小島さん:ご清聴ありがとうございました。