2016年より仙台市主催で開催されている「仙台ソーシャルイノベーションナイト」。今年度は途上国を中心に社会起業家を投資で支援するNPO法人ARUN Seedと連携し、「サステナブルビジネス・シリーズ」と題し、地域・社会課題・ソーシャルビジネスをキーワードに、全6回のシリーズで開催しております。
最終回となる今回は、2月26日(日)に開催された東北ソーシャルイノベーションサミット(TSIS2023)の受賞者より、「インパクトコース ソーシャルイノベーション大賞」を受賞した株式会社北三陸ファクトリー 代表取締役の下苧坪之典さん(岩手県洋野町)、「ビジョンコース ソーシャルイノベーション大賞」を受賞した伏見屋ガラス店 代表の三保谷泰輔さん(福島県郡山市)にご登壇いただき、受賞したビジネスプランの概要と、今後目指す先についてお話いただきました。
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■登壇者
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■モデレーター
NPO法人ARUN Seed代表理事/ARUN合同会社代表 功能聡子さん
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国際基督教大学、ロンドン政治経済大学院卒。民間企業、アジア学院を経て1995年より10年間カンボジアに在住。NGO、JICA、世界銀行などの業務を通して、復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信し2009年ARUNを設立。日本発のグローバルな社会的投資プラットフォーム構築を目指して活動している。
(主な表彰等実績)
SBIビジネスプランコンテスト優秀賞、エコジャパンカップ2010 環境ビジネスウィメン賞、第三回日経ソーシャルイニシアチブ大賞国際部門賞、国際基督教大学DAY賞(Distinguished Alumni Award)受賞。2016年 「Forbes Japan世界で闘う日本の女性55」に選出。「60分でわかる! SDGs 超入門」(2019年技術評論社)監修、「よくわかる開発学」(2022年ミネルヴァ書房)執筆。
(主な登壇等実績)
朝日新聞主催「SDGs著者に聞く」「イノベーション視点で考えるSDGsとアジア」登壇
日弁連主催「パンデミックとビジネスと人権」登壇
日本能率協会主催「経営革新塾」講師
J WAVE For Our Earth「今さら聞けないSDGsの基礎!」出演
JICA主催 課題別研修「日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナー:ファイナンスの新たな潮流・女性の金融アクセス課題の克服」講師
日本経済新聞社主催「日経ビジネスイノベーションフォーラム:社会的課題解決への多様なアプローチから見るソーシャルビジネス」登壇
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■ゲストトーク①
共創型リユース事業でつくる持続可能な未来(伏見屋ガラス店 代表 三保谷泰輔さん)
はじめに、伏見屋ガラス店の三保谷さんより、ビジネスプランの概要と、今後目指す未来についてお話いただきました。
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三保谷さんの原点
福島県郡山市で大正3年からつづく伏見屋ガラス店の代表を務める三保谷さん。ガラスをはじめ使われなくなった“古いモノ”の再活用事業に取り組んでいます。“古いモノ”の再活用には『使ってきた人の物語を生かし引き継いでいくことが出来る』『廃棄とエネルギー使用を抑制し環境負荷を軽減することが出来る』『創作を楽しみ暮らしを豊かに出来る』『時を越えた味わいや経年変化の美しさがある』など多数の効果や魅力があるといいます。
そんな、三保谷さんの原体験は、海外でのボランティア体験にあります。香港での海岸清掃ボランティアや中国での砂漠化地域植林ボランティアなどに参加、背景にある社会課題(海洋ゴミや砂漠化)を現場で体感する中で、大量生産-大量廃棄型の社会のあり方に問題意識を持つようになったのだそう。
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解決を目指す社会課題
世界の人全てが日本人と同じ生活をすると地球2.8個が必要になる。このことに大量生産-大量廃棄型の社会の実態が現れていると三保谷さんは指摘します。三保谷さんの事業領域である建築業界においても同様の課題があります。人口減少が進むなか住宅新築棟数及び住宅解体棟数はほとんど変化しておらず、住宅ストックが増加し続けているのです。今後、空き家が増加し、解体に伴う廃棄物の増加が予測されています。
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事業内容と描く青写真
三保谷さんは、『ゴミという概念を無くし、あらゆるものが形を変えながら生かし続けられる世界をつくる』をVisionに、『当初の役割を終えたものを形や用途、使い手を変えて、使い続けられるように、再デザインする』をMissionにそれぞれ掲げ活動をしています。
Vision/Mission実現に向けた事業構想は、解体住宅から廃材を回収。リユース・リメイク商品として再活用したり、中古住宅や店舗のリノベーションで活用していくというものです。具体的な事業内容として3つの事業をご説明いただきました。
▷ガラス店だからできるガラスの再活用事業
ガラスをステンドグラスにリメイクし、ランプや家具などとして再活用する事業。
▷共創型リユース事業 =再生活用事業者協同組合=
ガラスや木材など専門性を持つ事業者が連携し協同組合を結成。解体住宅から廃材を回収し中古住宅や店舗のリノベーションに再活用し、企業や個人向けに賃貸や販売を行う事業。
▷空き店舗を再活用した商店街の再生事業
伏見屋ガラス店が立地する商店街にある空き店舗を有志で立ち上げた実行委員会にて改修し、再活用する事業。
本業であるガラスに関係する事業にとどまらない事業を描くワケについて、三保谷さんは、「これまでガラスの循環を実践してきましたが課題解決への影響は微々たるものでした。そこで住宅として取り組む領域を広げましたが、住まいだけでは暮らしは成立しません。地域コミュニティがあり買い物の場・医療の場など多様な場の存在があってこそ暮らしは成立するのです。今ある暮らしの中で、再活用が文化となり持続可能な社会を実現していきたい。そのための3つの事業なのです。」と語ります。
そして、これら3つの事業を推進していくことで、5年後には東北各地に活動の輪が広がり、再活用が文化として根付いている。そんな青写真を描いています。どのように再活用事業者の仲間を増やしていくかや協働の仕組みづくりなど課題もありつつ、「今ある課題を生み出したのが私たちであれば、その課題も私たちで解決できる。魅力的な再活用のカタチを生み出していきたい。」と決意を述べ発表を締めくくりました。
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■ゲストトーク②
Regenerative Ocean Farming 〜地域と水産業の未来を創る〜(株式会社北三陸ファクトリー 代表取締役 下苧坪之典さん)
続いて、株式会社北三陸ファクトリーの下苧坪さんより、ビジネスプランの概要と、今後目指す未来についてお話いただきました。
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下苧坪さんのこれまでの軌跡
岩手県北、青森県との県境に位置する岩手県洋野町にて生まれ育った下苧坪さん。社会人となり、一度洋野町を離れるものの、ご両親が営んでいた水産会社を辞めるとの話を受け、2010年にUターン。新たに会社(株式会社ひろの屋)を立ち上げます。その後、2018年に水産加工品の製造・販売を行う株式会社北三陸ファクトリーを。2022年に水産業の担い手育成を行う一般社団法人moovaを。2023年4月には、オーストラリアにてKSF Australia Pty Ltd.を。それぞれグループ会社として立ち上げ、地域の水産業の未来を創るべく事業を展開して来ています。
下苧坪さんの活動拠点である洋野町は、水産業に係る多くの強みを持った地域です。世界で唯一のうに牧場があり、本州一のうに水揚げ量を誇るほか、日本一のブルーカーボン造成地でもあるとのこと。
そんな地域の強みを活かすべく、株式会社北三陸ファクトリーを中心に、うに関連商品の製造・販売を進めて来られました。2年前には4.5億円を投資し国際規格全てを有した工場を設立。創業当初2人だった従業員も、現在では50人となったそうです。
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水産業が抱える“磯焼け問題”解決に向けて
『地域と水産業の未来を創る』をMissionに掲げる同社ですが、水産業には高齢化による担い手不足や産地偽装、魚価低迷、温暖化など多くの課題があります。
そうした水産業の課題の中で下苧坪さんが解決に注力してきたのが“磯焼け”の課題です。“磯焼け”とは、藻場が荒れ海藻が死滅してしまう現象のことを指します。海のゆりかごといわれる海藻がなくなることは海洋生態系に大きなダメージを及ぼします。
“磯焼け”の原因であるうに食害を解決すべく、ウニを管理するための仕組みづくりとしてうにの再生養殖事業を北海道大学と推進。独自の飼料やいけすの開発に成功し、現在では、北海道から東北にかけて多数のファームを実装しているとのこと。この再生養殖を行うことで従来は(うに食害により磯焼けとなった地域では、うにが大量にいるものの十分な食料が得られないことから身入りと質が悪いため、市場に出せる状態でなく)産業廃棄物として5円/個をかけて捨てていたうにを500円/個で販売できるようになるのだといいます。“磯焼け”を解決すると共に、厄介者を宝物に生まれ変わらせることが出来るのだと。
そして、“磯焼け”に悩んでいるのは、日本だけではないのだと下苧坪さんは指摘します。世界のうに水揚げ高三位であるオーストラリアでもうに食害による“磯焼け”は大きな問題となっており、水揚げしたうにのうち9割は市場に出せない状態となってしまっているといいます。
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地域と水産業の未来を創る 〜株式会社北三陸ファクトリーが描く青写真〜
日本において地域と水産業の未来のための仕組みづくりを進めてきた下苧坪さんが描く次の1歩は、世界において地域と水産業の未来のための仕組みづくりを進めていくことです。
現に、2023年4月にオーストラリアに新会社を設立。うに再生養殖を行い国内外に展開していくほか、食用に適さない品種のうには、水産物の中で最も葉酸の含有量が多いという特性を活かしサプリメント市場に出していく予定といいます。そして、2030年には売上500億円/時価総額1,000億円企業に成長させていくのだとその構想を語ります。
終わりに、下苧坪さんの活動の原点にあたるお話をしていただきました。
「今から70年前、私の曽祖父は船で香港に渡り年間2,000トンものアワビを取り引きしていたといいます。まさに、これが私のDNAです。そして、大切なことは、これが、海藻があったからこそ成り立っていたのだということです。現在アワビの水揚げ量は100トンに満たないんです。私は、海藻のある未来を創ることによって、地域と水産業の未来を創っていきたいを思っています。」
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■トークセッション
その後のトークセッションでは、特定非営利活動法人ARUN Seed代表理事の功能聡子さんをモデレーターに、ゲストのお二人が今年度参加してきた仙台市社会起業家育成支援プログラムの主催者・運営者・メンターからそれぞれ代表質問者をお呼びし、ゲストのお二方の想いやこれからを伺っていきました。
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事業を成長させるエンジンとは
創業当初2人だった従業員も、現在では50人に。そして、今春からは海外での事業展開も進めていくという株式会社北三陸ファクトリー。事業を成長させていくためのキモについて下苧坪さんに伺いました。
[下苧坪さん]
「Visionを掲げ続ける。そうするとVisionに共感していただける方が集まって来て、今度はその方々は発信をしていただける。こうした、Visionを起点とした良い循環が生まれ続けてきた12年間だったと感じています。そして、会社の仲間たち。右手・左手・右足・左足となってくれる優秀な仲間たちがいるんですね。僕はVisionを掲げる+営業をするくらいで。そのほかはプロフェッショナルの仲間たちに任せた方が早いなと感じたんです。なので僕はボールを持たずに得意な人にすぐパスをする、そんなスタンスで事業を行って来ました。仲間たちと出会い1年1年積み重ねて来られたことは幸せだなと感じています。」
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―仙台市社会起業家育成支援プログラムの主催者代表として仙台市酒井さん、運営者代表として弊社本多、メンター代表としてサンノヘエール五十嵐さんがそれぞれの立場から質問をしました。
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仙台市社会起業家育成支援プログラムに参加する中での気づき・変化
[五十嵐さん]
「三保谷さんのメンターを務めていて、この半年間、本当に日々ご自身と向き合って来られていたなと感じています。このプログラム(仙台市社会起業家育成支援プログラム)を通じて、景色が変わったり、変化を感じたりしたところがあればお聞かせください。」
[三保谷さん]
「プログラムに参加する前は、無意識のうちに失敗しないように・恥をかかないように・周りに迷惑をかけないようにという前提を持ち事業を考えていたなと思います。プログラムを通じて、メンターの皆さんたちと対話する中で、もっと周りを頼っていいんだ・チャレンジしていいんだ・試行錯誤をしていかないと想いは実現できないんだとマインドが変わってきました。大きなVisionを掲げるということにも最初は抵抗があったんですけど、逆に大きなVisionであったからこそ、そこに共感してくださった方が一緒に取り組んでいこうと来ていただけたんです。Visionやマインドの部分が実感として腹落ちしたこと。このことがプログラムを通じての大きな変化であったと思います。」
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自らが1歩踏み出せたワケ&東北で1歩踏み出す人を増やすためには
[本多]
「きっとお二人とも、よし!やろう!とスイッチが入ったタイミングがあったんだろうなと思います。ぜひ、そのきっかけを伺いたいです。また、お二人のように仙台・東北で自ら1歩踏み出す人を増やしていくためには何が必要なのかについてもご意見をお聞かせください。」
[下苧坪さん]
「漁業者や同業者にはあいつには絶対無理だと言われ続けて来たんです。けど、負けないぞという思いでやって来たんです。この周囲のマイナスの反応が僕にとってのスイッチだったのかなと思います。営業も・組織づくりも、難しいこともたくさんありましたが負けないぞという思いを持って12年間やって来ました。そして、1歩踏み出す人を増やすという点で大切なのは、師として仰げるメンターの存在だと思います。私自身も多くの素敵なメンターの皆さんや尊敬する先輩起業家に助けられて来ました。先輩起業家の背中を追い続ける。そして、メンターに頼る。これが、起業家にとってとても大切なことであると考えています。」
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次世代に受け継げるもの・受け継いでいくべきもの
[酒井さん]
「ご先祖様のDNAを受け継いで今活動をされている点がお二人の共通点としてあるなと聞いておりました。逆に、次世代に向けて何を残していきたいか、どんな未来を作っていきたいかお考えをお聞きしたいです。」
[三保谷さん]
「私のガラス店は、私で4代目になるわけですが、前の3代が真面目にしっかりと続けてきてくれたことが、今の地域での信頼・信用につながっているなと実際に地域で挑戦を始めてみて実感しているところです。ですので、私も未来の世代にとって残してもらえてよかったと思ってもらえるような取り組みをしていきたいと考えています。」
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―最後に下苧坪さん、三保谷さんからメッセージをいただきました。
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[下苧坪さん]
「私は、私利私欲ではなく利他の心で事業を推進するというスタンスを持ってやってきました。東北は12年前の震災でたくさんの方が亡くなったわけですが、たくさんの方とのつながりが地域に生まれてきた12年間であったとも思います。それは、利他の心があったからであると思うわけです。これからの起業家に求められるのも同じく利他の心であると思っています。ここ東北から。日本、そして世界を目指して挑戦をし、東北を豊にしていく。そんな、仲間ができたらと思っています。ぜひ、一緒に挑戦していきましょう。」
[三保谷さん]
「私自身これまでなかなか想いを形にできずにいました。けれども、人に話したり、プログラムに参加したりと実際に行動に起こすことで少しずつ道がひらけてきたように思います。例え小さな一歩でもどんどんチャレンジを起こしていただけたらと思います。」
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私どもINTILAQでは、熱い想いをもち自ら1歩踏み出し挑戦する人を“ココロイキルヒト”と呼んでいますが、まさに、お二人は“ココロイキルヒト”であるなと感じるお話でした。ぜひ、ここ東北から、日本、そして世界を目指して挑戦をし、東北を豊にしていく。そのための小さな1歩がたくさん生まれる。それをみんなで応援していく。そんなエコシステムをつくっていきましょう。
―ココロイキル仲間を増やし、ココロオドル東北へ!―
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■今後のイベントについて
2016年より仙台市主催で開催されている「仙台ソーシャルイノベーションナイト」。この度、途上国を中心に社会起業家を投資で支援する特定非営利活動法人ARUN Seedと連携し、「サステナブルビジネス・シリーズ」と題し、「地域」、「社会課題」、「ソーシャルビジネス」をキーワードに、全6回のシリーズをお届けしております。今後開催するイベントについてご紹介します。
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#特別編 2023年3月24 日(金)「日本発!世界で挑戦するソーシャルスタートアップのカタチとは」
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