ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

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SENDAI for Startups! Day1 「SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT」 イベントレポート

ビジネスを通じて社会を良くしよう、地域課題を解決しようと志す起業家、挑戦する人を応援し、世に送り出していくイベント「SENDAI for Startups!」が、2018年2月9日から11日まで、せんだいメディアテーク1階のオープンスクエアで開催されました。

(「SENDAI for Startups! 2018」はINTILAQ東北イノベーションセンターが仙台市・GLOBAL Lab SENDAI・株式会社ゼロワンブースターとともに共同主催

2013年にスタートし、今年で6回目となる本イベント、初の3日間連続開催となった今年は、テーマが異なる3つのイベントで構成されています。

Day1は、様々な課題解決を志す「社会起業家」をテーマとした『SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT』

Day2は若者のアプリ開発・ゲーム開発を支援し産業創出に特化した『DA・TE・APPS!』

Day3は、東北により大きなビジネスを興していくことを目指す『TOHOKU ACCELERATOR DEMO DAY』

まずは、2月9日(金)に開催されたDay1 「SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT」の様子をレポートします。

Day1 「SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT」

初日となる『SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT』は、基調講演、ゲストによるパネルディスカッション、そして「ソーシャルイグニッションアクセラレータープログラム」に採択された12名の起業家によるプレゼンテーションが行われました。
平日日中の開催にもかかわらず、およそ200ある客席を埋め尽くすほどの来場者で大盛況となりました。

最初に、本事業の主催者である仙台市経済局長の石川浩史が開会挨拶を務めます。
石川:「震災後、この地にやってきて根を下ろした方や、あるいは故郷に戻ってきた人たちがたくさんいます。そういう人たちの支援に継続して取り組んでいきたい。
仙台市としては、社会起業家の皆さんをどんどん支援・育成・応援しながら、仙台・東北の未来、そして様々な課題の解決につながるような、新しい知見が得られることを祈念しています」

そして、ハーバード大学経営大学院(ビジネススクール)教授の竹内弘高先生による基調講演が始まりました。

基調講演「ハーバードは東北で何を学んだか」

ハーバードビジネススクールは「ケースメソッド」と呼ばれる授業手法が有名ですが、世界的な金融危機などを契機に改革が進められ、現場で学ぶこと、フィールドスタディも取り入られるようになったそうです。

竹内先生は、2012年から始まったIXP( Immersion Experience Program)という授業で、毎年ハーバードの学生とともに東北を訪れています。東日本大震災の被災地でなにが起き、どういった企業が活躍し、新しいビジネスが生まれているかを現場で学ぶプログラムです。

初年度のプログラムでは、がれき撤去などの力仕事も経験しながら、ナショナルチェーン企業や津波被害にあった病院の震災直後の取り組み(クイックレスポンス)を教材にしました。そして2013年以降は、被災地東北に次々と生まれた起業家たちのもとを訪れ、彼らの活動を具体的に取材し、あるいは具体的なアドバイスをする場になっていったそうです。

何を学んだか

竹内先生:「こういった経験を通じて、ハーバードの学生たちは、多くのことを学びました。
ひとつは、東北には、ウォールストリートの考え方とは真逆の新しいリーダー、「Wise Leader(賢慮のリーダー)」が出現しているということ。「Wise Leader」は、(1)「善」を判断し、(2)本質を把握し、(3)「場」をつくり、(4)「本質」を伝え、(5)政治力(判断力)を行使し、(6)実践知を育むことができる人材です。

さらに、「Mission(何のために存在するのか)」・「Vision(どのような未来を想像したいのか)」・「Value(価値観)」の3つを大切にするという姿勢も、学生たちは東北の起業家から学ぶことができました。

そして、企業が経済的価値だけでなく、社会的価値を生むこと、CSV(Creating Shared Value)と考え方が根付いている様子を、彼らは東北の人々の姿から見出したんです」

竹内先生は最後に「学生たちに学びを与えてくれた東北の皆さんに感謝の意を申し上げたくて、この場に立ちました」と述べ、講演を締めくくりました。

パネルディスカッション「東北でのソーシャルイノベーションとハーバードが学んだこと」

続いてのパネルディスカッションでは、本イベントの主催団体のひとつである一般社団法人IMPACT Foundation Japanの竹川隆司がモデレーターを務め、竹内先生に加え、ハーバードビジネススクールの学生たちを受け入れた実績のある、宮城県内で活躍する3名の社会起業家がパネリストとして登壇しました。

パネリスト:
株式会社小野花匠園 代表取締役 小野政道さん
一般社団法人はまのね 代表理事 亀山貴一さん
公益社団法人MORIUMIUS 理事 油井元太郎さん

登壇者の紹介

小野さん:「こんにちは、南三陸町で農業をやっている、小野花匠園の小野といいます。菊農家を父から継いで、家族経営でやっていたが、震災のとき、自宅に25名の避難を受け入れた。その人たちは(津波で)家も仕事も失っており、彼らのために何かできないかと思ったときに、自分には農業があるので、そこから雇用を生み出せないかと思い……震災から11ヶ月後、法人化しました」

小野さんは経営について何もわからない状態から、出荷の仕組みを変えるなど事業化に取り組み、いまは仮設住宅に暮らす人や、海の仕事を失ってしまった人など社員・パート合わせて20人ほどを雇用しています。

亀山さん:「石巻市の牡鹿半島にある、蛤浜というところでカフェを経営している、一般社団法人はまのねの亀山です。

ここは震災前に9世帯しかなかった超限界集落で、自然の中で育ちました。同世代は仕事が無いのでどんどん(地域を)出ていって、私は水産高校の教師になることができて戻ってこれた。自分の中では理想の生活だったが、津波によって全てなくなりました」

亀山さんは、津波により家も、仕事も、配偶者も失ってしまったといいます。
それでもこの浜の豊かな暮らしを後世に残していきたいと思った亀山さんは、仲間を募り2013年にカフェをオープン。年間15,000人のお客様が浜を訪れるようになりました。

亀山さん:「住民ではないがこの場所にコミットしたいという『関係人口』を増やしていきたい。人口5人、関係人口1,000人。(このモデルが)他の集落・地方を救うアイデアになることを目指しています」

油井さん:「MORIUMIUSの油井と申します。私はもともと東京生まれで、海外も長く、アメリカに18年ぐらいいました。東北とは震災がきっかけで縁ができまして、もともとは2004年から東京でキッザニアというテーマパークの開発をしていたが、友人がこの辺の出身で、彼の家族を助けるために仙台の避難所に来たのがそもそものはじまり。ここで何かをしなければと思い炊き出し などの活動をしていたら、今いる雄勝町にたどり着きました」

「モリウミアス」は子ども向けに特化した施設で、2015年にオープン。森や海、農業や家畜の力を借りながら、サスティナブル(持続可能)な生き方について学び、価値を感じてもらう体験を提供しています。

油井さん:「子どもたちと雄勝がつながれば、その関係は何十年も続く。そうやって、教育と、雄勝のまちづくりの2つをかけ合わせたような活動をしています」

質問テーマ「ハーバードビジネススクールの受け入れから一番学んだことは」

小野さん:「3年間、継続して学生の皆さんに来ていただいた。お彼岸など日本の文化は、数日の滞在期間では伝わらないのではないかと思っていが、だんだん理解してもらえるようになった。ずっと想いから入って事業をしていたが、(学生の皆さんには)冷静に小野花匠園の強みなどを理解してもらうことができた。そこに柔軟さを感じた」

亀山さん:「第一印象はびびった。こんな限界集落の何もないところ、私は民間への就職経験もないし、ここに何を学びに来るんだろうと。みんなナイスガイで、泥臭いことも一生懸命やって、我々を理解しようと努めてくれた。

受け入れ2年目には浜の状況も変わって、住民の反発などもある中で、(学生の)皆さんはビジネスのプロなので『何人の反対でそれをやめたんだ』『二人の反対で君たちはビジネスプランを変えるのか』など、自分たちが感覚で判断してきたことを、客観的に言葉にしていただいた。

いろんなビジネス本や、カフェ経営の本を読んだけど、まず立地の段階でアウトなので(笑)、ハーバードの人たちは我々のことを理解した上で、寄り添ってアドバイスをしてくれた」

油井:「雄勝みたいな、外国人がもともと来ない地域で、客観的な視点を入れるというのは大事。私もだんだん住民化、地元ナイズされていって、『これはできないな』という思考が生まれてくる。我々や、住民にとっても、自然の豊かさや、生きることの手触り感を学生の皆さんが感じて帰ってくれたのは、それを聞くだけでも嬉しいし、多様な考え方をもった外の人たちに触れることで逆に自分たちのあり方を考えるきっかけになった」

ハーバードの学生の変化

竹内先生:「モデレーターの竹川さんも実は12年前にハーバードを卒業している。どう、 こういう話を聞いてくすぐったい?」

竹川:「私はナイスガイですが(笑)、そもそもそういう人たちが東北に来たんでしょうか。確かに私の時代にも多様な人がいたが、ハーバードビジネススクール(の学生全体が)そういう風に変わっていったんでしょうか」

竹内先生:「両方だと思う。私が最初にハーバードにいた1976年〜1983年に、ソーシャルマインドを持った学生はわずかだった。今はほとんどの学生がそう。その中で、4,000ドルの航空運賃を払って来ているのは、相当マインドが高い人たちかもしれない」

竹川:「私が入学式で言われたのは、隣の人は卒業したらマッキンゼーに行く、もう片方の隣の人はこれまでマッキンゼーにいたんだと、それぐらいコンサルや銀行に就職する人が多かった」

竹内先生:「今は、スタートアップ企業に多くの学生が行く。ハーバード生を一人しか採用しないような会社に、7割の学生が行く」

質問テーマ「東北から世界に向かって発信できることはなんですか?」

小野さん:「チャレンジし続けること。もし震災の後、働くこと、生きることを諦めていたら、今の暮らしは戻ってこなかった。働く場所を作り、仕事を失った人たちもそこで働き、諦めに続けてきたことで、今ようやく、海の仕事や山の仕事も、少しずつ戻ってきている」

亀山さん:「既存のビジネスとは何か違うと思ってやってきた。私と同じ世代の人たちが日本全国から震災をきっかけに東北に集まり、同じ想いでビジネスを継続させようとしている。価値観や想いが根っこにある『Inside Out』のビジネスを、東北から世界に広げていきたい」

油井さん:「制約もあるが豊かな暮らしが、東北には残っているし、幸い漫画やアニメの影響で、日本を好きと言ってくれる外国人はたくさんいる。東北から自然や暮らしの価値を伝えたい」

ソーシャルイグニッションアクセラレーター採択起業家12名によるプレゼンテーション

ソーシャルイグニッションアクセラレーターとは、社会起業家として「一歩踏み出す」ことをサポートするプログラムです。2017年に第1回の募集が行われ、採択された12名の起業家を半年にわたり育成してきました。

その12名によるプレゼンテーションが行われ、パネルディスカッションに登壇した皆さんによる審査と、来場者による共感賞の投票も同時に実施されました。

また、会場後方には、「センダイヤタイ」に起業家の皆さんのブースが設けられ、休憩時間等に来場者と起業家が対面する機会も儲けられています。

さてここからは、いよいよ12名の社会起業家の皆さんのプレゼンテーションを紹介していきましょう!

「発達障害ってカッコイイ」と思える社会を実現する
株式会社マナライブ 代表取締役 木村一也さん

富谷市で、障害児を預かるデイサービスを経営している木村さん。
自身の子どもも発達障害と診断され、親としての苦悩、支援の不足を感じたそうです。

木村さん:「発達障害のお子さんを持つ親に必要なのは2つ。共感できる仲間と、正しい知識です。知識を持ち、見方が変われば、(子どもにとって)一番の味方になれる。そんな親を、プロの支援者として雇用します。
発達障害の子どもは、ダメなことばかり注目されてしまいます。しかし、彼らは特殊な感性・才能を持っています。異才を見つけ、磨き、認めることで、才能が開きます」

木村さんは、こういったモデルを東北から全国に広め、「発達障害はカッコイイ」という価値観を広げていきたいと考えています。

食べる人とつくる人をつなぐ
MuSuBi FARM 上野まどかさん

農家の娘として生まれ、東京に就職しても当たり前のように父の作った米を食べていた上野さん。4年前、父が病に倒れたことで、「私が食べる食材は、父や誰かがつくってくれるもの」と無意識に思い込んでいたことに気づきました。

上野さん:「たとえば100年後、スーパーに5種類の野菜しか並んでいなかったら、皆さんはどう思いますか? 農業者人口は減る一方です。私も父に農業を継ぎたいと言ったら、猛反対されました。

食材は身近になり、安価に手に入るようになりましたが、生産物の価値は下がってしまっているのではないかと思いました。食べる人もつくる人も、それが当たり前だと思っているのではないでしょうか。
おいしいの向こう側を知ってもらうことができたら、食べる人とつくる人、お互いの顔が見えるようになったら、お互いに笑顔になれます」

人々の食への意識を変え、持続可能な食環境をつくるのが、上野さんが目指す未来です。

ふるさとを守る農業
株式会社つながるファーム 代表取締役 丹治智幸さん

元政治家という異色の経歴の丹治さん。ふるさとの福島市で農業法人を立ち上げました。

丹治さん:「ふるさとを守ることは、きれいごとではありません。補助金に頼るのではなく。経済的に自立して、そこに暮らす人達が守るのです。

農業で、どうやってふるさとを守りきれるのか。農業の素人である私が守れるふるさと、地域の皆さんに関わってもらえるふるさとは何かを考え、長ねぎをつくることにしました。

何故長ねぎか。誰でもつくれて、年中つくれます。大規模につくることができます」

広大な耕作放棄地に長ねぎ畑を広げ、高齢化する農家の知恵と経験を引き継ぎ、そして農業経験のない素人や、障害を抱える人にも雇用をつくる。誰もが働きやすい環境をつくり、ふるさとを守ります。

すべての赤ちゃんが心から祝福される社会を
MUSASI D&T株式会社 代表取締役 佐藤里麻さん

日本では、10人に一人が2500g未満の低体重児として生まれてくると言われています。

低体重児の長男を出産した佐藤さん。赤ちゃんが小さく生まれると、NICUと呼ばれる赤ちゃんのための集中治療室に入院します。そこでは、ほとんどの赤ちゃんがベビー服を着ていませんでした。
しかし、佐藤さんの妹が、長男のために小さなベビー服をつくってくれたのです。

佐藤さん:「ベビー服を着た息子を見たとき、息子が一人の人間として認められた、そんな誇らしい気分になりました。
そしてもうひとつ、嬉しいことがありました。息子の服を洗濯するという、親としての幸せな仕事ができたのです。私は、他の(低体重児の子を持つ)お父さんお母さんたちにも、この感動を感じて欲しいと、強く願うようになりました。もし小さなベビー服がなかなか手にはいらないのであれば、私が全国に提供していきたいと思ったのです」

小さな赤ちゃんが生まれると、周囲も祝福しづらいという風潮があります。そんな時、具体的に赤ちゃんの様子を聞かなくても、生まれてきた赤ちゃんを祝福できるための、プレゼント用ギフトカタログも販売しています。

佐藤さん:「私は、小さく生まれた赤ちゃんも、大きく生まれた赤ちゃんと同じように、周囲から祝福して欲しいと思っています。
もし、周りに小さな赤ちゃんが生まれた、生まれそうという話を聞いたら、この小さなベビー服を思い出してください。不安を感じているお母さんが、未来をイメージするきっかけになるかもしれません」

近所の公園に新たな価値を
株式会社ミヤックス 取締役 企画開発室長 髙橋蔵人さん

公園の遊具をつくる会社を父から継ぐことを決め、宮城に帰ってきた髙橋さん。
年間800箇所の公園を見てきた髙橋さんは、誰も遊ばなくなってしまった公園をたくさん見てきました。

髙橋さん:「なぜ利用されないのでしょうか。これまでの公園は、子どもを中心に考えられてきました。今の子どもたちは、ゲームやスマホなど様々な魅力がある中で、公園に行かなくなっているのです。
地域の人たちに聞いたら、『子どもだけじゃなくて、家族みんなで使える広場にしたら良いのに』と言われました」

髙橋さんがたどり着いた答えは、芝生のある公園。住民参加を促し、企業からの協賛を得るモデルをつくることで、公園に新たな価値をプラスしていきます。

自分らしく働き、生きることのできる社会
株式会社キャリアアシスト 川出裕佳さん

ある日交通事故に遭い、「やっと仕事を休んでもいいんだ」と考えている自分に気づき、恐怖したという川出さん。働き方について見つめ直すきっかけとなりました。
しかし、いざ悩んでいても、具体的な目的の決まっていない仕事の悩みをする場所がない、ということに気づきます。

川出さん:「人は本来、誰かではなく、自分の中に答えを持っています。わからなくなっているごちゃごちゃした部分をひもとくお手伝いをします。そのために話を聴く技術も身につけました」

キャリアカウンセラーとしての仕事をはじめた川出さん。ある日、何十年も働いていなかった方を面談します。何度かお会いし、丁寧に話を聞いているうちに、その方に変化がおこり、「私、仕事を探してみようと思うんだけど」と言ったのです。その時、付き添いの方がポツリと「やる気ないんだと思っていた」とつぶやくのを、川出さんは聞いていました。その方には、サポートする力はあったけど、聴く力がなかったのです。

川出さん:「私は聴く力が、悩んでいる人の力になれると実感しています。私は自身の活動を続けるとともに、聴くことができる人を社会に増やしていきたいのです」

自殺や不登校、いじめのない、誰もが希望に溢れる社会
Team AOZORA 団長 佐藤一彦さん

子どもの自殺、そしていじめや不登校をなくしたい。佐藤さん自身も、野球部のコーチをしていた時に保護者からいじめのような扱いを受けたと言います。

佐藤さん:「自分の行動、そして保護者がどうしてそんなことをしたのかを深く学ぶため、心理学を研究しました。そしてわかったことは、自尊感情を高めることによって、いじめも、いじめられることもなくなるという結論にたどり着きました」

佐藤さんは、アカデミックな考え方を取り入れた青空スポーツ少年団を結成。子どもの健全な育成に取り組み、誰もが希望に溢れる社会を目指しています。

自分や家族の健康に向き合う社会
Aroma Reha Care 理学療法士 澁谷希望さん

渋谷さんは、理学療法士として5年間、病院に勤務していました。

澁谷さん:「病院では結果を教えるだけ、気をつけてください、と声をかけるだけ。『気をつけるって何?』と思っている間に放置してしまい、病気につながる方がたくさんいます。みんな、病気だけを見て、患者さんのことを見ていない、と感じました。

病気に向き合っていないのは、医療・介護の現場の人たちだけでしょうか。皆さんは、診療をしてもらって、『もらって』いるだけで終わりにしていませんか。今飲んでいる薬が、自分の身体にどんな作用をもたらすか、わかっていますか。自分のおじいさんやおばあさんが、介護施設でどのように過ごしているか、知っていますか」

自分や家族の病気・症状に向き合うことで、病院や介護の現場も、本来の役割を取り戻すことができる、と澁谷さんは考え、患者さんの個別ケアや、予防に関する知識を広めるための活動をはじめています。

まちとまちをつなげて、東北の未来を切り開く
株式会社ARISE 代表取締役社長 畠山智行さん

クリスチャンの畠山さんにとって、父の故郷であり、隠れキリシタンを保護したという歴史を持つ、秋田県湯沢市・院内地区は特別な場所です。

畠山さん:「東京への一極集中、人口減少は、東北にとって大きな社会課題です。しかしそこに解決の糸口がないわけではないと思っています。人口が減っても、産業が成り立つ仕組みと、外から人を集めるアイデアがあれば、まちは発展を続けながら、存続していけるはずです。

私は、第二の故郷・院内のために、新しい生涯学習の場をつくります。趣味やカルチャーにとどまらず、手に職をつけて人生が豊かになるようなコンテンツを、子どもから高齢者まで、あらゆる世代に提供していきます。

そして、この事業を展開する際には、オンラインで院内と仙台をつなぎます。絆が生まれ、交流が増えます。将来的には、まちとまちとのつながりを東北全体に広げていきたいと思っています」

子どもの貧困の連鎖を、愛情の循環へ
特定非営利活動法人STORIA 代表理事 佐々木綾子さん

シングルマザーとなった佐々木さんは、息子が中学生の時に不登校になったことをきっかけに、15年勤めた化粧品メーカーを退職しました。幸い周囲の大人も彼に愛情を注いでくれ、無事学校を卒業した後は、アジアの貧困地域で子どもたちのために活動。佐々木さんも、子どもの貧困という社会課題を解決する活動をしています。

佐々木さん:「仙台に2箇所、子どもたちの居場所を開設し、親御さんを亡くした子どもたち、シングルマザーの家庭の子どもたちが通っています。

親御さんの経済的な困難は、どうしても見せられない、隠したい、そういった状況にあるので、課題が見えづらい、気づかれにくい現場にあります。貧困は、連鎖します。ダブルワークやトリプルワークの家庭で育つ子どもには、愛情が十分に注がれなかったり、勉強の機会を失ったり……いわば、生きる力が奪われているのです」

今では、施設に通った子どもたちが笑顔を取り戻し、同じような環境の下級生の子どもたちに手を差し伸べたり、一緒に勉強したり、そういった循環が生まれてきているそうです。佐々木さんは、このような居場所づくりを、全国に広げていきたいと思っています。

がんサバイバーが本気で夢を生きる世の中に
かるぺでぃえむフォト 代表 藤原英理花さん

28歳直前で癌になり、薬の副作用で「女の命」の髪を失ってしまった藤原さん。自分の姿を思い出に残そうと、ウィッグ、メイク、服装までプロの手を借りて撮影したら、その新しい自分の姿に自信を取り戻し、生まれ変わったような経験をしました。

そこで藤原さんは現在も自身のがんの治療を続けながら、がんと向き合う「がんサバイバー」専門の写真撮影サービスを立ち上げようとしています。

藤原さん:「写真を撮る間に、『なりたい理想の自分とは?』と問いかけ、全身のコーディネートをします。提供するのは、ただのプロマイド写真ではありません。写真を通じて、感動、夢、生きる目標、自信、そしてチャレンジ精神。

がんサバイバー特有の、肌質の変化や体力の低下に考慮しながら、現役がん患者の私だからこそ、寄り添っていけるサービスだと思っています」

依存型の工事から、巻き込み型の工事へ
株式会社ミライデザインワークス 代表取締役 小島英弥夫さん

一級建築士の小島さん。学生時代にバックパッカーとして世界中を旅し「楽しいまちの条件とは?」と考え続けたことが、今のビジネスにつながっています。小島さんが提唱するDIO(Do It Ourself)は、みんなで作業する、仲良く慣れる、愛着がわく、そんな新しい建築の手法です。

小島さん:「もともとロンドン大空襲の後に『俺たちでこのまちを作り直そうぜ』という民衆運動が、DIYのルーツ。僕たちの提案するDIOも東日本大震災がきっかけですが、70年経って何がバージョンアップしたかというと、インターネットがある。巻き込み力が生まれ、参加型の建築になってきています。
さらに、建築に、コミュニティをつくる手段としての機能をもたせたいと思っています。例えばカフェをつくるんだったら、応援してくれる人と一緒に壁を塗ったり床を貼ったりすれば、ファンができて、店ができたときには常連ができるという、一粒で二度おいしい話になる」

DIOには失敗がありません。プロの作業でムラやシワができたら失敗ですが、みんなで作業すれば、そのムラこそがみんなでつくった証になります。

小島さん:「DIOというスタイルが全ての建築に向くとは思っていなくて、スタイリッシュな建物、大きな建物はプロがつくったほうがいい。小さいゲストハウスとか、カフェとかなら、DIOの方がエッジも効くし、安くできる。プロとDIYというマーケットの間にDIOというカテゴリーをつくりたい」

投票・審査へ

12名のプレゼンテーションが終わり、投票と審査が始まりました。結果発表は、次のパネルディスカッションの後に行われます。

パネルディスカッション「ソーシャルイノベーション最前線:全国各地の事例から学ぶ」

2回目のパネルディスカッションは、全国の社会起業家3名が登壇。引き続きIMPACT Foundation Japanの竹川がモデレーターを務めました。

パネリスト:
株式会社坂ノ途中 代表取締役 小野邦彦さん
株式会社PEER 代表取締役 佐藤真琴さん
認定NPO法人アジア教育友好協会 理事長 谷川洋さん

登壇者の紹介

小野さん:「小野と申します。よろしくお願いします。何をしているかというと、野菜を売っている会社です。珍しいことは3つぐらいあって、いわゆるオーガニックなものを扱っている、年間400種を超える幅広い野菜を扱っている、そしてもうひとつ。誰が育てた野菜(を扱う)かというと、150件ぐらいの取引先のうち、9割が新規就農、新しく農業に挑戦している人たちです。
農産物流の常識として、少量不安定なものを扱うのはアホのすることだと言われていて、僕たちはそこに立ち向かっているわけです。新規就農する人たちは志があって、結果品質の良いものができあがるが、規模が小さくなりがちです。なので普通の流通会社は付き合わない、だからしんどいよね、ということになる。そこを変えていきたい」

坂ノ途中のテーマのひとつに、環境負荷の小さい農業を広げるというものがあります。既存の農業者はほとんどが農薬をつかった慣行農業で、そういった人たちが農業をやめていく一方、オーガニックな農法に関心の高い新規就農を志す人たちが増えていくことが、その近道ではないか、と小野さんは考えています。
また、発展途上国での有機農業普及活動にも取り組んでいます。

佐藤さん:「がん患者さんが困らない社会づくりというものをやっています。もともと看護師なんですけど、患者さんの髪が抜けた時になかなか生きづらいんだなという現場を見て、かつらを買いやすく、使いやすく支えていくサービスをつくりました。
具体的には美容室をやっています。患者さんの、外では言えないような辛いことを吐き出す空間にもなっています。そこで扱うかつらは、OEMで中間搾取がないので、市場価格よりかなり安くなっています。

医療と生きる人にとって困ることがたくさんあります。その中で命にかかわることは真剣に悩んでほしいですが、ちょっとしたサービスで解決できることもたくさんあるので、そういった部分を気軽につかってもらえるように、提供しています」

谷川さん:「谷川です。60歳でサラリーマン生活をスパッと辞めて、NPOをつくりました。東南アジアで学校の建設と、日本の子どもたちとの交流事業をやってきました。

現場主義で、この13年間に74回、足を運びました。そこで考えたのは、単に学校・校舎をつくって終わりではいかんと。長続きするには、村の人に参加してもらう、そして完成した後に日本の学校と交流する。『おらが学校』になれば、みんな大切にしてくれて、私がつくった270以上の学校は、1つも寂れていません」

質問テーマ「これまでの一番の失敗経験は」

谷川さん:「最初に規模が大きい学校をつくって、200人ぐらいの予定だったのがたった70人しかいないんですね。私怒ったんです、約束が違うと、それは間違いでした。突然消えてしまう支援者もいるので、彼らは私を本当に信用していいのか、テストしていた。しかし私は自分が正しいと思いこんでいた、自己満足的で『つくってあげる』と思っていたんですね。相手の文化、環境が育つのを待つ……つまり、時を味方にしなければならないんです。
今、その学校は一番成功した例に育っています」

小野さん:「最初、飲食店向けの卸しからやっていたんですが、半年後の売上が、月18万円だったんですね。男3人で1ヶ月頑張って18万。なんかおかしいなと思って振り返ってみると、よくわからない付き合いや、僕らのことをビジネスパートナーとして見ていないお店が多かった。『小松菜2袋持ってきて、明日』みたいな。
畑に行くと、すごい大事なことをしていると思うんです。この人たちは農業を続けるべきだ、と。それが飲食店の方にいくと、便利アイテム、客寄せパンダ的に『カラフルな人参あります』とかやってるのが、農業の価値を貶めているような気がして……。そういう飲食店との取引はやめようと、変えていきました」

佐藤さん:「創業したころはひとりでやっていたので、チームになってきて人を雇った時に事業の切り出しができなくて、発注ベースになっていたんです。全部私が患者さんの相談を受けて、これはあなた、これはあなた……とやっていたら、患者さんのディープな話を一日5〜6人も聞いているうちに調子が悪くなってしまった。起業家の先輩に『前線で戦う人も、後ろで考える人も大事で、チームをつくっていかないと会社がすぐ潰れて社会に迷惑をかけるぞ』と言われ、心を改めました」

質問テーマ「東北の興す人へのメッセージ」

小野さん:「地域外との連携を大切にしてください。地域の課題と向き合うのは地味だし大変。日本ではあまり語られないが、海外だと農業が及ぼすネガティブインパクトは当たり前に語られるので、取り組みを褒められたことがあります。それが自分のひとつの支えになっているわけです。たまには一歩引いて、外の人とつながってみるのが大事です」

佐藤さん:「ソーシャルベンチャーをやっていると、『みんなわかってくれない』と孤独にひねくれたりするんですが、せめて自分のまわりにいる隣人が自分のことをわかってくれなければ、もっと遠い人はわかってくれない。せめてチームとか、一緒にやっている人、親戚のおじさんぐらいは『そうだよね』とわかってくれるぐらいに語ってみてほしい。
私はそこをずっと省いて7年ぐらいやってきたが、敵もめっちゃ増えて、頼んでいないピザが3万円ぐらい届いた。いろいろあったんです(笑)。
サスティナブルなことを考えたら、自分が変わればいいんですよ。信念を変えなければいいんです。自分のプライドなんかヤギに食べさせちゃえばいいし、自分が変わることを恐れずに、どうしたら伝わるかを考えてほしいです」

谷川さん:「震災の時に、我々のつくった山奥の学校の子どもたちが、なけなしのお小遣いを貯めて、福島県の子どもたちのために支援してくれたんです。その時に私が感じたのは、世の中ってお互いに思いやりでできているんだなと。それに感動してくれたのが、いわき市の中学生、彼らがひとり500円ずつ一生懸命貯めて、タイの山奥に子どもたちの資金だけで学校1つつくりました。そういう子どもたちを見ると、おい、大人たちしっかりしろよと。自分たちが立ち上がらないと助けてくれない。そういう意味では(東北が)もっと自立することだと。私たちもそれをお手伝いします」

結果発表・表彰式

再び12名の起業家が再び壇上に立ち、来場者の投票によって決まる共感賞と、パネルディスカッションに登壇した7人の審査による、大賞・優秀賞の発表が行われました。

共感賞
1位:小島英弥夫さん
2位:佐藤里麻さん・髙橋蔵人さん

東北ソーシャルイノベーション優秀賞
澁谷希望さん・木村一也さん・藤原英理花さん・丹治智幸さん

東北ソーシャルイノベーション大賞
小島英弥夫さん

見事大賞と、共感賞を受賞した小島さんによるスピーチです。

小島さん:「全然予想していなかったです。私が全部思いついたわけではない。いろいろやっている中で仲間ができて、仲間がくれたアイデア、偶然出てきたものが多い。震災後にいろんな活動をしている中で、いろんな人に支えられて、踏み固められて、形になったものだと思います」

総評

竹内先生:「12名の皆さんでひとつのチームを作って欲しい。皆さんが結束すると、とんでもない力になるかなと。東北のアントレプレナーチームとして、今後頑張って欲しい。

大賞の方に一言言うと……あ、涙ぐんでますね。
なぜ大賞かというと、一番コンセプトを発表してくれたのかなと。DIOというコンセプトが皆さんをひきつけてくれた。涙を流しているところも素晴らしいし、素のままでプレゼンテーションをしていた。僕は『俺』って言うのが好きでしたね。ステージでは普通使わない、あの素の姿がよかったかなと。

パネルディスカッションに登壇した先輩起業家の皆さんを見て、皆さん感じたと思いますが、成功すると、あれだけ自信に満ち満ちて、あれだけ言いたい放題いえる、凄いなと感じたと思います。ぜひ彼らからノウハウを学んでいただけたらと思います」

竹川:「この会場にいる全員がチームだ。ここにいるみなさん、全員でお互いに拍手を送って終わりにしたいと思います」

最後に、登壇した皆さんの記念撮影をして、Day1のプログラムは幕を閉じました。