2018年7月3日、一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事の関治之氏、認定NPO法人マドレボニータ代表理事の吉岡マコ氏のお二方をお迎えし、『先輩起業家から学ぶ、「社会変革」の進め方』と題したレクチャーを開催いたしました。
登壇者プロフィール
関 治之 氏
一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事/合同会社 Georepublic Japan CEO/株式会社HackCampの代表取締役社長/神戸市チーフ・イノベーション・オフィサー
吉岡マコ氏
認定NPO法人マドレボニータ代表理事/産後セルフケアインストラクター
第1部:関氏、吉岡氏による事業紹介
第1部ではゲストのお二方それぞれ自己紹介や自身の事業概要、今後の展望について、基調講演を行いました。
関治之氏
「オープンコミュニティでより良い社会を作りたい」
元々はITエンジニアとしてキャリアを積んでいた関氏。
転機は2011年の東日本大震災。これを機に、自分のプログラミングスキルを活かし、情報の氾濫が起きていた被災地の情報プラットフォームを作る活動に取り組まれたそうです。「自分のスキルを世の中のために活かせることに面白みを感じた」と語った関氏はこの事をきっかけに活動を開始しました。
その中で「行政のシステムに改善の余地があるんじゃないか」と思ったのがきっかけで、Code for Americaの理念に共感し、自らコンタクトを取り、コード・フォー・ジャパンを立ち上げました。
想いを言語化し、共感してくれる仲間を集めることから始まった
関氏は、ネットワークも資金もない中、行政も地元団体、企業も市民も皆が「ともに考え ともに作る」というコンセプトを掲げ、この思いに共感してくれる仲間を集めることから始めたそうです。現在では日本全国で約80団体にその活動が広まっています。その中で、コード・フォー・ジャパンはそれぞれのコミュニティを繋げ、知恵を共有し、ノウハウをシェアするネットワークとして機能しているそうです。
現在、行政や起業家・各分野のプロフェッショナル・市民などが一緒にアイディアを出し合う参加型ワークショップや、ともに作る場としてハッカソンの実施、データを使って地元の情報解像度を上げるワークショップや、行政の職員向けのデータアカデミー開催など、多岐にわたり活動しています。
Build with, not for
これからの行政は、誰かのためにサービスを作るのではなく、だれかと「一緒に作る」、という共創環境を作ることがコード・フォー・ジャパンの目指す姿です、と語っていました。行政、地元企業、NPO、市民、それぞれに対して様々な働きかけ、ワークショップを実施、それぞれの人を繋げることで、垣根をこえて共創できる環境づくりを目指すコード・フォー・ジャパンの取り組みを共有してくださいました。
最後に、関氏から、社会起業家を目指す方々、また社会課題に立ち向かっている起業家へのメッセージをいただきました。「まずはアクションを起こすこと。そこからのフィードバックをどう受け取るか、それをどのように人に伝えられるかが大事だと思っています。」
吉岡マコ氏
「産後から世界を変える」
吉岡氏は自身の息子さんの出産後、体も心も傷ついた状態にも関わらず、24時間体制で子育てがスタートする状況に直面し、世の中に産後のケアサービスが何もないことに愕然とした、と語ります。元々大学院で運動生理学を学んでいたこともあり、自ら産後の母親の体について、文献がほぼ無い中、自分の体を実験台にしながら、運動生理学の知識を活用し学んだそうです。その上で、産後に特化したリハビリ教室を立ち上げました。現在は全国68箇所に教室があり、認定インストラクターが27名いらっしゃるそうです。
自身の出産を機に立ち上げた教室でしたが、活動をしていく中で、これは、日本全体の課題だ、と日に日に実感していった、と語る吉岡氏。教室を始めて2年ほど経ち、生徒さんから、インストラクターになりたいとの声が上がったそうです。そこで吉岡氏は、このプログラムを標準化し、養成コースを作り、インストラクターの認定制度を整え、NPO法人を立ち上げました。
個人の課題を社会の課題として理解を得るために
法人化にあたり、行政や当事者以外に理解を得るために、産後の3大危機として「母体の危機」「赤ちゃんの危機」「夫婦の危機」を問題提起したそうです。しかし、既存のデータと実感値に乖離があることを感じ、独自で調査を実施し、真の課題をデータとして可視化することで、当事者以外の様々なステークホルダーを巻き込むことができたそうです。このように真の課題を突き詰めることで、ソリューションを考えることに繋がり、現在はそもそも産後ケアの必要性を知ってもらい、アクションをしてもらうために様々な啓発ツールを整備し、認知を広めることに取り組んでいるそうです。
支えられる側から支える側へ
活動を続ける中で、本当に支援を必要としている人に支援が行き届いていない現実に直面した、と語る吉岡氏。そこで、個人や企業から寄付を募ってマドレ基金という基金を作り、それを原資に産後ケアバトン制度という仕組みを作り、支援を受けたくても受けられない状況下の母親(双子の母親や、障害児の母親など)へのサービス無償化、介助ボランティアによる送迎サービスを開始したそうです。とある双子のお母さんの事例を共有してくださいました。2年前双子を産んだお母さん。教室に通えるようになり、フィジカル的にもメンタル的にもエンパワーされたことにより、3年後には自らが介助ボランティアとして参加してくださったそうです。吉岡さんが自らの経験を経て立ち上げた事業が、多くの協力者を巻き込みながら広まり、受益者が支援者へと循環する世界が生まれているそうです。
第2部:トークセッション
第2部では、弊社団代表理事の竹川とトークセッションを行いました。お二方の基調講演を受けて、会場の皆様からの質問をお二方にぶつけました。抜粋してご紹介します。
Q.行政をどのように巻き込んでいるのですか?
関氏:課題を正面から突きつけることはせず、同じ目線で考え、ワークショップなども最初は無料でやりますね。そうして、一緒に考える場を作ると、行政目線での課題を知ることができます。一担当者の日々の課題を拾って、「だったらこれしましょう」というように課題解決の提案をしていきます。それを繰り返していくと、行政の中に仲間ができ、信頼関係ができてきましたね。
Q.社会変革の「進め方」にフォーカスすると、お二方ともご自身の事業が拡大してきていますが、どのように現在の状況まで進めてきたのでしょうか?
吉岡氏:拡大するために遠くを見るのではなく、どれだけ自分の足元を掘り下げられるかが大切だと思っています。自分たちの価値は何なのか、何のためにやるのか、というところを突き詰め、言語化することで、結果、深い共感を得ることができ、協力者が現れる。今は様々な起業家支援があり、とかくスピードを求められているように感じます。私は時間がかかりましたが、自分たちの足元を徹底的に見つめ考察することに重きをおいてきたことで、今、小さな一歩から始まった思いと活動が全国のインストラクターの思いと活動へと広がっています。
関氏:コード・フォー・ジャパンはどちらかというと、概念、コンセプト「ともに考え ともに作る」というところだけは自分たちで決めたのですが、その他は各団体に委ねていますね。私たちは情報をシェアしたりはするのですが、各団体はそれぞれ自由に活動していけるので広がっているのかなと思います。
Q.一人一人が自分の価値観に気づき、社会のために行動を起こすためにはどうすれば良いのでしょうか?
関氏:何かを始めるのに大きなリスクをとる必要はないと思っています。企業に属しながら始めたって良いと思います。小さなことから始められる環境があれば良いな、と思います。また、身近なロールモデルがある、ということも大切だと思いますね。
吉岡氏:リーダーというと、組織のトップなどが該当すると思いがちですが、私は全ての人がなんらかの形でリーダーシップを発揮しうると思っています。全員に何かしらの才能や得意なことがあり、それを発揮して世の中に変化を起すことがリーダーシップを発揮することだと思います。一人一人がリーダーの自覚を持ち、自分がどういうリーダーシップを発揮していけるのかを自分に問うて、一人一人が力を発揮することができれば、もっと良い社会になると思います。
筆者の感想としては、登壇された関氏、吉岡氏、代表理事竹川全員に共通することとして、考える前に行動した、という点です。心に響くことがあり、「動かずにはいられなかった」というのがお三方のスタートだそうです。失敗を恐れず、一歩自分の力でアクションを起こすこと、そこがすべてのスタートだと感じました。それは小さくても偉大な一歩だと感じました。