ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

<イベントレポート> Sendai Social Innovation Night 2019.8.22 社会課題解決を促進するICTのチカラ ~「ココロイキルヒト」によるICT活用事例~

今回の仙台ソーシャルイノベーションナイトでは、「社会課題解決を促進するICTのチカラ」に焦点を当て、ICTサービス提供事業者と、東北内外からお招きした起業家の双方からの視点で、様々な活用事例をご紹介いただきました。

●株式会社NTTドコモ 東北復興新生支援室 主査
水野浩伸氏より

本日は被災地の社会課題におけるICTの活用事例をお話させていただきます。
まずはNTT復興支援支援室の概要についてですが、2011年の年末に設立され、社内公募制でメンバーが集まりました。ボランティアや復興支援活動のお手伝いを現場志向でやってまいりました。主な取り組み等は以下のとおりです。

1.農業
ICTを活用して農薬肥料を利用しない究極の安心安全米をつくる取り組みを行っています。

2.水産
震災で勘に頼れなくなった海をデータで解析、自然環境の変化に対応できる漁業を実現しています。

3.買い物弱者支援
近くに商業施設がない被災エリア(仮設受託など)において、外出して買い物をする楽しみを無人販売所で創出しています。

4.ICTの力で害獣から農作物を守る取り組み
震災後イノシシ等の被害が深刻化しています。ICTを使っての対策に取り組んでいます。

5.タブレットによるコミュニティ支援
原発事故により全国へ離散した住民をタブレットでつなぐ取り組みを行っています。

6.仮設住宅・高齢者の見守り
高齢化を社会で予想される高齢者の孤立を防ぐため見守りの分野でICT活用を検討しています。

7.林業
通話が難しい現場で働く方々のための新たな通信手段を提供。安心安全な原盤を実現し、林業の魅力をアップすることに貢献しています。

8.子供たちにふるさとの今を伝える取り組み
避難先のいわき市の小学生向けに自分で入ることができない帰還困難区域のふるさとを5G技術で疑似体験してもらっています。

9.AIを活用した観光支援事業
観光業において、AIを活用した誘客モデルを創出。観光地とファンとSNSのコミュニティでつなげ活性化を目指しています。

10.災害をARで疑似体験
火災になり煙が充満する様子や、洪水による水位の上昇を、AR技術を使って疑似体験していただいています。

●株式会社アイセック・ジャパン 代表取締役
一瀬 宗也氏より

アイセックは沖縄にある会社です。沖縄は観光業は盛んなのですが、産業がないのが実情です。沖縄では、ベンチャー企業を育成していこうという取り組みがあり、そこで応募して設立された会社がアイセックです。

私自身は以前IBMという会社に在籍していました。そこで沖縄のコールセンターを立ち上げる仕事をしていたのですが次につなげる仕事をしなければと考えるようになり、沖縄が気に入ったこともあって沖縄での起業を決意しました。

私がテーマとするのは、「社会貢献3.0」です。社会貢献1.0は個人ボランティアが主流の阪神淡路大震災でした。
そして、売上と利益だけだった企業が社会貢献をしていかなければならない、という状況になったのが2.0です。
ところが1.0も2.0も、自分の会社(仕事)が忙しいときには行けない。儲かっているときにはいいですが、厳しい状況になるとそういった社会貢献への活動時間が削られてしまうことになります。

社会貢献3.0では、ビジネスとして成り立つ社会貢献の仕組みを考える、というのが大前提となりますので、私は耳の聞こえに問題がある方を対象としたサービスを考えました。

今、日本に耳に不自由がある方は36万人と言われています。ところが、手話がわかる人は7万人しかいません。本当は文字のサービスが求められているのに、ほとんど注目されていないというのが実情です。さらに、日本補聴器工業会の調べでは、耳に不自由がある人は実は1,420万人にも上ると言われています。

「e-ミミサービス」
しゃべった声が沖縄にあるセンターにつながり、そこでタイピングしてもらい、耳の不自由な方に文字で情報を伝えるサービスです。
只今、私の声をセンターに送って実際にタイピングしてもらうデモを行っていますが、今私は1分間にだいたい350文字くらいのスピードで話しています。でも、実際の人の入力スピードは、1分間に200文字が限界です。

実は、私たちのサービスでは、2人ペアでタイピングしてもらう形をとっています。
ここが当社のノウハウなのですが、2人が短いタイミングで交互に打ち、それぞれが違うことを打っているのです。それがこのような今デモでお見せしている文章になって表示されるわけです。

このサービスが今、議会でよく使われるようになりました。耳が悪くても議会を見たり聞いたりする権利は当然あります。7年前に佐賀県武雄市で使われ始めたのを皮切りに千代田区議会や福井県議会などでも利用されています。

また、「防災世界会議」が仙台で2015年に開催されましたが、その時に会場で字幕を打ったのは私たちです。その際は英語と日本語で字幕を出しました。今後は、テレビやラジオなどでももっと使ってもらいたいと思っています。

私たちのサービスは、今はまったく人だけでやっているのですが、最近「音声認識」というAI技術が普及しており日々進化しています。本当は音声認識の認識率が高まるのであれば、その間違った部分だけを人間がチェックすれば良いはずなのですが、その音声認識の認識率が実際はまだ低すぎるのがネックになっています。同じ人が話し続けると認識率が高まりますので、「リスピーク」と言って、つまりオペレーターがもう一度それを言葉にして同じ人がしゃべって認識させる、という認識率を高める取り組みもやっています。

●株式会社コー・ワークス 代表取締役 / 株式会社IoT.RUN 代表取締役
淡路 義和氏より

私は大手ITベンダーで6年半働いた後、2009年4月に株式会社コー・ワークスという会社を起業したのですが、皆さまに支えられ今年おかげさまで10周年を迎えることが出来ました。そしてこの節目の年に、新たなチャレンジとしてコー・ワークスが元々実施していたIoT事業をカーブアウトし、株式会社IoT.RUNという新会社を立ち上げ、現在スタートアップ中です。

コー・ワークスは、元来持つICTのナレッジやノウハウを活かし、様々な事業に取り組んでいますが、我々のメインの仕事は「ダム制御システムの保守業務」という意外と固い仕事をしています。ダムは全国に約3000箇所ほどありますが、そのうち約200箇所のダムを担当しており、宮城県の釜房ダムのシステムも我々が保守しています。
その他、本来であれば製造業が請負うような、例えば製本機の試作開発をする仕事とか、地域社会の課題をICTの利活用により解決支援するような事業も展開中です。そのような取り組みが認められ、昨年経産省の地域未来牽引企業にも選出いただきました。

我々はICTのナレッジ・ノウハウを提供し、企業様の想いや目的をカタチにするお手伝いをいろいろとしてきています。今日はその中からよりすぐりの事例を3つご紹介したいと思います。

1. ドコモ様との協業ソリューション「Kagatta」
鳥獣被害は163億円と巨額です。そのうち、鹿とイノシシの被害が全体の7割を占めています。鹿とイノシシはくくり罠か箱罠で捕獲するのですが、これだと誤って人が罠にかかってしまうことがあり、定期に見回る必要があります。
これをICTの技術と力を利用しつつ、広く電波が届くドコモ様の3G回線を活用して、人が見回らずとも罠に掛かったことを通知してくれるサービスを開発・提供しようという取り組みです。

2. 軽水力発電機「Cappa + IoT」
Cappaとは、大人2人で運ぶことが出来、かつ河川の流水で発電出来るという画期的な発電機で、我々はこの発電機の状態を遠方からでも監視出来るIoT装置を開発しました。しかし、日本ではいろいろな問題がありなかなか活用できる場がなかったため、JICAのODA事業を活用し、水資源が豊富で、かつ無電化地帯が多いネパールに導入しました。結果、電気が通らないと日中でも暗くて勉強しづらい教室や、村のシンボルである寺院にあかりを灯すことで、地域住民の暮らしを豊かにすることが出来ました。

3. 地方自治体における「ICT人材育成」支援
地方創生の機運高まってきた5年前、我々のような小さな会社でも何か出来ることがあるのではないか、ということでいろいろとチャレンジした結果、ICTが強みである我々が出来る本質的な支援は「我々のICT技術を使って、瞬間的に地域の支援をすること」ではなく、「我々のICT技術を地域のプレイヤーに伝え、そのプレイヤーが継続的に地域を支援していくスキームを作る手助けをすること」だと気付き、スタートした事業です。
我々が今でも支援している秋田県鹿角市では、お子さんが産まれたばかりの家族が都会に転居してしまう、という問題があったのですが、これは共働きだったお母さんが仕事を辞めてしまうと家庭収入が激減し、旦那さんの今の稼ぎでは満足に生きていけないため、収入を増やすために都会に転居してしまう、という内容でした。そこで我々が提案したのは「在宅で子育てしながらでも仕事が出来るICT研修」でした。結果、参加者の半数以上が就業機会に恵まれ、約3万~11万の収益を上げられるようになりました。

ここからは会場からの質問も交えたパネルディスカッションです。

Q.創業のきっかけはなんですか?

淡路氏:元々、大手ITベンダーのグループ企業で働いていたのですが、その中で違和感を感じたことがありました。それは、尖った能力を持つ社員の評価が低いことでした。例えば、プログラミングは130点だがコミュニケーションは10点、みたいな尖ってはいるが凄い能力を持つマイノリティが評価されず、その能力が活かされていない。こういったマイノリティが働きやすい、生きやすい組織を作ったら、顧客に対し全てにおいて130点の価値のサービスを提供することができる組織が生まれるんじゃないか、そんな仮説を立てて起業しました。

一瀬氏:大卒後IBMに入りました。今にして思えば競争社会の中で一生懸命やってきたと思いますが、50歳になったときにIBMの中ではやりきった感がありました。考えてみるとできていなかったことは社会貢献。人生100年時代でちょうど折り返しのタイミングでしたし。今後は社会のために何かできないかと考えて起業しました。IBM時代に、コールセンターの運営を担当ていしましたが、その時に気づいたのが「電話で話をすることできない人がいる」ということです。そのような人たちのために何かできないかと考えたのが起業のきっかけでした。

Q.地域のため、となったきっかけは?

淡路氏:起業して6年ほど経ち、会社として成熟してきてそれなりに余裕が出来てきたタイミングで、我々にとって大切な人がたくさんいるここ東北・仙台に本社を置く企業として、この地域のために出来ることはないか、というのを模索し始めたのがきっかけです。

Q. ドコモは地域や社会のためという意識が強い気がするのですが、そもそもドコモのフィロソフィーは何なのでしょうか? 

水野氏:5年も続けていると、社内でもまだ復興やっているの、という雰囲気になってきて、本業とつなげていかなければという意識が強くなりました。

支援だけでやっているとお金の持ち出しの一方ですし、単に本業からお金をもらいつつの貢献になってしまいます。そこでCSV(Creating Shared Value)「共通価値の創造」を意識した流れになりました。

Q.最初から事業はうまくいったのでしょうか?

一瀬氏:正直、経営者としては失格だったと思います。商売よりも先に「やる!」という気持ちから入りましたのでお金が回らず大変苦労しました。ここ3年くらいでようやく利益が出てくるようになりました。

淡路氏:当初は一介のSEでしたし、コー・ワークスの起業は失敗したくなかったので、勉強の意味も兼ねてクレープ事業を一から起こすという経験をしてみたのですが、結果案外うまく行きましたし、今の会社を経営するベースとなる知識を得ることも出来たので、とても良い経験となりました。おかげさまでコー・ワークスの方は順調に推移しました。

Q. お二人ともICTの素養がある会社にいたわけですが、ICTを使おうというのは最初から考えられていたのですか?

淡路氏:コー・ワークスの理念上、特にICTの活用を最優先には考えていませんでしたが、私が前職でICTのスキルを得ていたのと、やはりどんな業種でもICTの活用は必要ですので、自分が生きていく手段としてICTの技術や活用ノウハウを提供するビジネスをまずはやろう、というのは考えていました。仕事は今までの大手企業のシステム開発支援が中心の内容から、中小企業の支援にシフトしたのですが、そこで最も強く感じたのは、お客様から直接ありがとうと言っていただけることに対する喜びでした。

一瀬氏:私はIBMにいたころは小売業のお客様にPOSのシステムの構築が担当でした。IBMという企業は、金融業や製造業等で大きなコンピューターを使っている企業がメイン顧客でしたので、実は小売業は社内でも異端でした。自分はそんな小売業に関わったこともあり、お客様から、直接「ありがとう」と言われる存在になりたいと考えていました。

そして、どうしても人生の中で「社会貢献」をやってみたかったんです。そう考えたときに、社会貢献1.0、2.0、3.0という考えを知る機会があり、自分でこれはやってみようとなったわけです。それをIBMではできなかったのかとよく言われるのですが、実は退社してから、社内でもそんなことをやっている部署があると後から知りました。社内にいたときにはまったくわからなかったのです。でも、これも、やってみなきゃわからないというわかりやすい例だと思っています。

Q. ICTの仕事は理系じゃなきゃダメなんですか?

水野氏:そうである必要はないと思います。原因を見つけるのは理系文系どちらでもよいと思いますし、それぞれが得意な強みを活かせばよいのではないでしょうか。

淡路氏:ICTもいろいろなジャンルがあり、文系・理系それぞれの強みを生かせる場があると思います。そして仕事はチームで行うので、文系・理系の強みを活かし弱みを補完し合える、そんなチーム作りが出来たらいいですね。

一瀬氏:実際、社員のほとんどは文系です。入力のオペレーターに理系である必要はありません。要するに、文系であろうが理系であろうが、困ったときに発見する力、考える力をもった人、というのが重要だと考えています。
Q:これにICTを使える!と思うのはどんな感じなんですか?

淡路氏:私自身はやりたいことが先にくるタイプで、ICTのスキルやノウハウはそれを実現するために活用する、というケースが多いですね。そのためにICTで何が出来るかの知識は、ある程度あった方が効率的だとは思います。

一瀬氏:企業は継続させていくことが重要だと思います。AIが進むとなくなってしまう仕事があると言われていますが、じゃあどうやって継続させていくんだとというときに、人がやるべきこと、AIがやるべきことをじっくりと考えることが大切だと思います。

Q:アイセック・ジャパンのオペレーターさんはどんな人たちですか?

一瀬氏:普通の人たちです(笑) タイピングの仕事がモノになるまで早くて3か月、普通は6ヵ月かかります。要するに先行投資が大きいビジネスモデルです。ポイントは、「癖」を取り除いていくことで、そうすると飛躍的にタイピングが早くなってきます。

Q. 皆さん自身はどのようにICT技術の情報収集し、会社としてどう次につなげていかれたいのでしょうか?

一瀬氏:TVのバラエティ番組などでも気づかされることが多いです。IBMの頃は新聞読みまくっていましたが、今は新聞はあまり読まなくなりました。TVのバラエティで頭を柔らかくしながらヒントを得ている感じです。それをどうICTに活かせるか、そしてどう「継続」させていくかを意識しながらやっています。

淡路氏:私は昔から座学が苦手なので、自分が如何に「情報収集するのが楽しい」とか、「情報収集しなければならない」という状況を作れるか、自らのモチベーションをどのようにセルフコントロールするかをひたすら追求してきました。
会社としては、昨今ICTの進歩によって仕事がなくなるんじゃないか、などと言われていますが、私はどちらかというと「人が楽しいと思える仕事しか残らない」と楽観視しています(笑)ですから、社員が社会や技術の変化に対応しながら、個々が楽しいと思えてお金もちゃんと稼げる仕事を選択するように心掛けています。

モデレーター:最後に、ココロイキルヒトに対しての応援メッセージ、もしくはICT活用というポイントで一言ずつお願いいたします。

水野氏:東北で見つけたタネが育ち全国につながっていくような形にできたら、と心から思っています! 皆さん、一緒にがんばっていきましょう!

一瀬氏:協業していける人は実はたくさんいると思っています。1人よりも複数でやっていったほうが楽しいですし、そしてそんな多くのメンバーたちと社会のためにやっていけたらと強く思っています!

淡路氏:ICTは難しいものとか、面倒だと思っている人が多いかもしれませんが、これはあくまでも想いをカタチにしたり、目的を達成するスピードが格段に上がる、スケールしやすくなる道具、ツールだと思ってください。得意でない人は得意な人を巻き込めば良いだけの話ですので、私でも良ければ遠慮せずにどんどんご相談ください!

ご登壇いただきました皆様、どうもありがとうございました。