〈イベントレポート〉Homedoor理事長・川口加奈さんに訊く ~14歳から向き合い続けた社会課題解決とビジョン~
【イベント概要】
「貧困」、「生活困窮」、そして「ホームレス」、ともすると自分と関係ないと思われがちな社会課題が、現在日本で身近な問題になり始めています。
2016年に発表された世界の貧困率比における日本の位置は14番目(15.7%)、先進国の中で中国やアメリカに次いで3番目の高さとなっており、しかもその数字は増加傾向です。新型コロナウィルスの感染対策でグローバルなヒトとモノの流れや、国内の経済活動が制限を受ける中、「貧困」問題は世界的にも国内的にもさらに大きな社会課題となってくると考えられます。
その「貧困」、特に「ホームレス」の課題に対して、14歳でその課題に気づき、活動を続けている社会起業家がいます。認定NPO法人Homedoor(ホームドア)理事長である川口加奈さんは、「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくる」をビジョンに、6つのチャレンジを通じて、ホームレスの人々の路上脱出のサポートを行なっています。
今回の「仙台ソーシャルイノベーションナイト」では、その川口さんをゲストに迎え、オンラインにて開催させていただきます。14歳の頃の課題との「出会い」からその後の活動、さらには団体設立以来今に至るまでの取り組みについて振り返りつつ、想いや考え方の変遷、そして今、さらに未来に向けて感じていること、考えていることについて、お話いただきます。さらには、最近の著書*でも発表された、14歳から15年考え続けて見出した「働く意味」についても、この機会に深掘りできればと思っています。
*『14歳で”おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』
https://www.amazon.co.jp/dp/4478111219
【ゲスト】
川口加奈 様
認定NPO法人Homedoor 理事長
1991年大阪府高石市生まれ。14歳のときに「あいりん地区(通称・釜ヶ崎)」の炊き出しに初めて参加し、ホームレス支援活動を始める。大阪市立大学在学中だった2010年4月にHomedoor設立。2011年7月に就労支援事業「HUBchari(ハブチャリ)」 開始。同年10月NPO法人登記完了。居住支援施設「アンドセンター」の運営や生活支援、雇用創出など、事業の幅を広げながらホームレスの人の暮らしを支え、選択肢を広げる活動を行っている。『フォーブス』誌の「30 UNDER 30 JAPAN 日本を変える30歳未満の30人」に選ばれたほか、数多くの賞を受賞。
認定NPO法人Homedoor https://www.homedoor.org
【モデレーター】
竹川隆司
一般社団法人IMPACT Foundation Japan代表理事
国際基督教大学卒業。野村證券を経て、2006年ハーバードビジネススクールでMBAを取得。その後野村ロンドン勤務ののち2008年に独立、日米で起業を経験。東日本大震災をきっかけに活動拠点を日本へ戻し、2014年「東北風土マラソン&フェスティバル」立ち上げ、2016年INTILAQ東北イノベーションセンター設立などを主導。現在zero to one代表取締役、仙台市総合計画審議会委員なども務める。
【トーク内容】
竹川:今日はよろしくお願いします。最初に立ち上げた時のいきさつについて教えていただけますか?
川口:大学在学中に立ち上げたんですけれども、途中で一緒にやる友だちがいなくなっちゃって、それでひとりになったんですよね。その時、社会起業塾とかに応募したのが合格して、そういう応援してくださる機関に支援を受けている段階で、しかも当時私が19歳、最年少で受かりましたみたいな感じで肝いりというか、色々手厚く指導してくれていたのに、友だちがいなくなったから辞めるって言うのは自分の中で無責任なことをしたくないなって。
それに自分がもしそれをしちゃうと、今後、学生で起業しようとした子に風当たりも強くなっちゃうしみたいな。でもひとりでやっていくって勇気もいるし、できるかわかんないし。。。みたいな悩みがずっとありましたね。
でもある時「HUBchari(ハブチャリ)」の実験をしたらそれがうまくいって、メディアに掲載されたことが追い風になってハブチャリが本格的にやれそうってなってきたときに、やるしかないか!ひとりでもやろうって覚悟ができました。
竹川:ホームレス支援とハブチャリが結びつかない人がいると思うんですけど、その辺の背景を説明していただけますか?
川口: 最初に着手したのが路上からでも働ける仕事を作ろうっていうことで、ちゃんと雇用することでちゃんと収入を得てもらって、次のステップに進んでもらえるような、そういう仕事を作りたいなと思いました。
そしてせっかく仕事を作るんだったら、そのホームレスの人が得意としていることを仕事にした方が抵抗なく働いてもらえるんじゃないかというので、それで聞いて回ると、7割近くの人が自転車修理が得意って答えられて、それでその技術を生かしてビジネスにできないかなってスタートしたのがハブチャリです。
ちなみにどうしてホームレスの人が自転車修理が得意かっていうとって、実は7割近くの人が缶集め、廃品回収をされているんですね。その平均収入が10時間集めて1000円くらい。ただそれだけ集め回ろうと思ったら自転車がマストアイテムなんですけど、集めるうちに自転車が壊れても修理代を1000円の中から出していたら赤字になってしまうので、自分で修理されるようになったっていう背景があるんですね。
それで共通の特技を活かして、自転車ビジネスって何かないかなってシェアサイクルがちょうどヨーロッパで成功を収めたので、大阪でもできるんじゃないかとスタートしたのがきっかけです。
竹川:缶集めを効率的にやる方法を編み出すとかではなく、シェアサイクルになったプロセスについて教えていただけますか?
川口:おっしゃる通り、缶集めを効率的にするとか、色々考えました。でも缶集めって実は違法なんですよね。缶の収入って自治体の大きな収入源になっていて、違法にしているところも多いので、缶集めで何かビジネスっていうのは公にはうまくいかないんじゃないかと。
最初は自転車修理ということで、単純にリサイクル自転車の販売も考えたんですけど、利権が絡んでたりとか、競合他社が多いんですよね。もしうちが大流行して、他の会社潰したら、そこでまた失業者が出て元も子もないんじゃないかって考えたり、自転車修理を他と差別化するならホームレスの人が修理しましたって打ち出さなきゃいけないので、それだといつまでたっても支援される立場みたいな気持ちが抜けないんじゃないかとか、色々とひっかかるところがあったんですね。
そんな中でシェアサイクルはホームレスの人が支援される立場から、自転車問題を解決する担い手になれるのがいいなと思ったのと、唯一そういった様々な懸念点を払拭できたことで始まりました。
竹川:他の自転車修理の会社を潰しちゃったらその会社の人が失業しちゃうとか、違法なことをやっちゃいけないとか、懸念点があるじゃないですか。それって誰かが判断しないと、そっちの方向にいっちゃうと思うんですけど、その判断軸は川口さん自身がお持ちだったんですね。
川口:そうですね。あとはやっぱりメンターみたいな、起業塾とかそういう人たちからもいろいろ意見いただいたりしました。
竹川:ハブチャリは今いくつくらいあるのですか?
川口:230です。
竹川:めっちゃ広がっていますね!そして今何人くらい働いているんですか?
川口:全体で20名くらいですね。
竹川:10年ぐらいでだんだんと積み重なってきたんですね。
川口:そうですね。最初は人で貸し出しや返却をずっとしていたんですけど、20件くらいで限界が来るんですよね、いつの間にかチャリなくなってるとか、帰ってきてない、あれどこだっけ?とわからなくなってしまって、どうしてもシステムを入れる必要がでてきて、ドコモさんがパートナーとしていいんじゃないかっていうので、3年ほど前から一緒にさせてもらうようになって、システムが入ると土地の提供だけですぐに拠点ができるので、それで爆発的にまた拠点数が増えてみたいな感じでした。
竹川:そうするとドコモさんがパートナーとして入ったのはここ3年くらいの話で、最初は自分で自転車買って仕組み作って、いろんな場所と交渉して置かせてもらってみたいなところをやってたってことですね。完全にビジネスマンですね。
川口:シェアサイクル事業を始めた当初は失敗だったなと。始めるまでに準備するものが多すぎるんですよね。自転車だったり場所だったり、お客さんの候補だったりとか、認知度がなくてすぐには収入が入ってこなかったり、今となっては上手くいってよかったなという感じです。
竹川:ハブチャリの最初のころも含めて、お金はどうやって回してきたんですか?
川口:当時実績もない学生の団体が助成金に申請しても、大学サークルの延長くらいにしか思われなくて、ビジネスコンテストみたいなのに片っ端から全部応募して、それで賞金をもらってくみたいな感じで、5つくらい出して、全部もらいました。250万ぐらい。
自分は無給でやって、おっちゃん達に当面の給料は払えるぐらいの安心材料として、お金を持っときながらっていう感じでした。お金をかけずにスタートするっていうところで、ハブチャリを置いてもらう場所も無料で、その企業さんにCSRでご協力いただけるっていうのを前提に探してました。
あと、自転車は、実は昔シェアサイクルを実験的に仙台市がやったことあったんですけど、仙台市が購入したチャリを実験の後100台近く処分することになって、それを購入した大阪の会社さんがあって、その会社さんがくれたんですね。だから防犯登録が全部宮城県だったっていう。(笑)お客さんから何でこれ宮城県なのってずっと言われ続けて、そういう感じで自転車も譲ってもらったり、人件費以外は極力お金かけないようにしたというのが大きかったのかなとは思いますね。
竹川:ハブチャリはどうやって大きくなってきたんでしょうか?
川口:要素としては色々あったんですけど、一時期駅前の違法駐輪を取り締まるような業務委託を一緒にやってくれませんかと行政から打診があって、それが1回4000万ぐらいの規模だったりして、それでぐっと増えたり、ラッキーな感じで助成金もらえたり、あとGoogleさんから5000万円ぐらい寄付いただいたりしたこともありました。
竹川:社会課題解決型ビジネスだとどこも同じだと思うんですけど、困ってる人自身が受益者で、ビジネスだとシンプルに受益者からお金もらえばいいわけですけど、この場合そういうわけにいかないじゃないですか。
そういう状態でお金を集めてきて給料を払うっていうのは、単純にすごいなって思います。さきほどのビジネスコンテストの賞金とか寄付もそうなんですけど、最年少とかだけでは絶対になくて、その活動してきた年月とか、伝える思いや強さみたいなところが評価されてきたんじゃないかなっていうふうに感じています。
誰もが何度でもやり直せる社会へという言葉は耳にずっと残っていて、多分そういう強いメッセージが当時からあったんじゃないかなと思っていて。それって、どの段階でその言葉に行き着いたんでしょうか?ずっと10年間同じことを言ってるのか、それともだんだんブラッシュアップされて今一番いい感じにまとまってるのか、それともまだ変わりそうなのか?
川口:「ホームレス状態を生み出さない日本」っていうのが理念としてあるんですけど、そこは団体名が決まるより前、最初の頃から気持ちがありまして、10年間ずっという感じですね。
誰もが何度でも直せる社会にしたいみたいなところは、何度もブラッシュアップしていく中で、しっくりきた言葉としてあります。そこから6つのチャレンジというところが最終的に整理されて形になった感じです。
竹川:チャレンジっていう整理の仕方もいいですよね。これも最近出てきたのですか?
川口:ちょうど4年ぐらい前に、毎年寄付者さんに報告書を作っていく中でももっといい伝え方ないかなって事業を整理している中で、私たちの特徴が何かというと、毎年生み出された選択肢をそれが正解だとは思わずに、今年こういう課題があったから、来年度はここを改善していこうみたいな、一つ一つのところでPDCAを結構回しているんですね。
それってチャレンジなんじゃないかっていう。それで寄付者さんにチャレンジドキュメントっていう報告書をお渡しするようになって、今年こんなチャレンジをしました、結果こうでした、来年はこういうチャレンジします、みたいな、そういう中で生まれてきた言葉ですね。
竹川:いろんなところで発信し続けることによって、だんだん磨かれてきた言葉たちが、今まとまってその事業を伝える手段として整理されてるっていう感じなんですね。そのベースはやっぱり高校3年生の時書いたあの絵ってことなのかな。
川口:あれは5年前ぐらいに立ち戻ってみたら、あっ、この絵だみたいな、あれをずっとベースにしてきたってよりは、あれ、そういえばこの絵の通りっていう感じで、気づいたらそうなっていましたみたいな感じです。
竹川:質問が来ています。ホームドアさんのようなありがたい活動を広がっていけばいいなと思います。しかし一方でそもそもホームドアさんを生み出している現在の社会構造の問題について、感じておられることがあれば教えていただきますでしょうか?
川口:何をもってホームレス状態と定義するかによって違ってくるんですけれども、日本のホームレスの定義は公園とかで寝泊まりしている、目に見えてホームレスだとわかる人っていうのは実際減ってきているんですよね。
ネットカフェ難民のように屋根のある場所で寝るところあるけれども、困窮状態であるっていう人が増えていて、ハウスレスっていうんですかね、そういうところが今課題になってきています。
そうならないような社会にした方がいいんじゃないかってなると、それこそ非正規雇用の問題や家庭環境の問題、児童養護施設の出身者が困窮してしまうとか、母子家庭父子家庭の問題、障害を抱えている人だったりうつ病だったり、社会問題の色んな結果がホームレス問題を生み出していて、私達はそこまでアプローチしていくのは、現実的に難しいんじゃないかなと考えています。
どれだけ社会制度を完璧にしたって、どうしても抜け漏れっていうのはおきてしまうから、ホームレス状態に結果としてなってしまう人をなくなることってなくすことはなかなか難しいんじゃないかなっていう。
なので、路上生活したくないと思ったらせずに済むし、ホームレス状態から脱出したいと思ったら確実に脱出できる出口が、選択肢があるっていうところを作って、そこに注力しようってところはありますね。
竹川:次の質問です。地元で共感してくれる人や理解者を増やす取り組みとして行っていること、意識していることがあったら教えてください。
川口:そうですね。ひとつはボランティアさんの受け入れを積極的にしています。特に夜回り活動っていう、ホームレスに弁当を配ってまわる活動が月に1.2回あるんですけど、そこに参加していただいて、お弁当を渡して、当事者の人と話してもらったりしています。
ふだんホームレスの人を意識して見ようとする人っていないので、実は自分の町のこんなところにホームレスの人いたんだみたいな、そういう体験の中で考えるきっかけを提供していけたらと思っています。
あとストリートカウントっていう深夜に市民たちがホームレスの人をカウントしていくという取り組みもしています。オーストラリアから始まったイベントで、厚労省も一応調査をしてるんですけど、結局それが事実と異なっていたりするので、自分たちで把握していこうみたいな活動を市民参加でやったりしています。
それから、活動には参加できないけれども、寄付という形で応援するよとか、共感いただく人を増やせるように、まずは伝えていこうっていう感じですね。
竹川:最後にひとつお願いしたいのですが、この仙台イノベーションナイトは、新しく社会課題、地域課題に向き合う人のための社会起業家育成プログラムを一緒に応援するというようなイベントでやってるんですけれども、社会課題地域課題に向き合う人に対しての一言メッセージをいただけますか?
川口:私が始める時に言われた言葉として、ニーズの代弁者になりなさいっていうのがあって、それを結構大事にしてきたんですね。
どうしても起業するってなると自分がやりたいこととか、自分の興味があったり、いつのまにか自分がワクワクして、起業への熱意がキラキラしちゃうっていうところは多いにあると思うんですけど、そうじゃなくてあくまで社会企業家っていうのは、当事者の人たちがいて、その人たちのニーズを代わりに発信する、伝える、代弁する立場として活動しなさいよってことじゃないと、意味がありませんっていうふうに言われたんですよ。
その気持ちを皆さんもぜひ忘れず、最初のときのご自身が心動いた瞬間が、どなたにもあったと思うので、初心を忘れず、ニーズの代弁者になっていただけたらなと思っています。
本日はありがとうございました。
竹川:ありがとうございます。最後めっちゃいい言葉をいただきましたので、ニーズの代弁者になれということで、これを心して我々も伝えていきたいと思います。今日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。また皆さんもご参加いただきましてありがとうございました。
Homedoor
https://www.homedoor.org/