ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

〈イベントレポート〉仙台ソーシャルイノベーション・ナイト メディアが向き合う社会課題・地域課題解決 〜INTILAQ x NHKで語りあう課題解決の現場〜

日本・世界で活躍する様々なジャンルの社会起業家をお呼びして実施するトークイベント「仙台ソーシャルイノベーションナイト(SSIN)」。R3年度最終回となる今月のテーマは、『メディアが向き合う社会・地域課題解決の現場』です。メディアとして、報道を通じて様々な社会・地域課題の現場と向き合ってきたNHK。2016年の設立以来、一貫して社会・地域課題解決に向けて一歩踏み出すチャレンジの支援を通じた社会起業家が生まれ育つエコシステムづくりを進めてきたINTILAQ東北イノベーションセンター(運営:一般社団法人IMPACT Foundation Japan)。この両者が、それぞれの立場から仙台・東北の課題解決の現場について語り合いました。後半のトークセッションでは、社会・地域課題解決に向き合う手段として、NHKからは新しい地域採用について、INTILAQからは社会起業家という生き方や、キャリアモデルについて話題提供をしていきました。社会・地域課題解決といってもその手段は様々です。メディアと支援機関という異なる立場の機関が取り組む課題解決との向き合い方の実例を通じて、課題解決に向けた具体的な1歩の踏み出し方についての議論を深めていきました。

■ゲスト

NHK盛岡放送局アナウンサー大嶋貴志さん

平日のニュース番組「おばんですいわて」キャスター。東日本大震災以降、仙台でも勤務。被災地域の活動や社会起業家の取り組みなどを精力的に取材。ニュース番組の特集や番組も制作。「東北風土マラソン」は自ら走りながら取材。「情報は足で稼ぐ!」がモットー。

■ゲスト(トークセッション登壇)

NHK仙台拠点放送局 企画総務部(総務・人事)大里崇さん

一般社団法人IMPACT Foundation Japan プログラムディレクター本多智訓

一般社団法人IMPACT Foundation Japanキャリアモデル開発センター仙台 東北エリアマネージャー柴田北斗

■基調講演:メディアが向き合う社会課題・地域課題解決

はじめに、NHK盛岡放送局アナウンサー大嶋さんより、ご自身の歩みやメディアとして向き合う社会・地域課題解決についてお話いただきました。

 

大嶋さんのこれまでの歩み

埼玉県出身の大嶋さん。2004年にNHKへ入局以来、アナウンサーとして日本各地を飛び回ってこられました。そんな、大嶋さんが東北と関わりを持つようになったのは、2014年、宮城県(仙台放送局)への赴任がきっかけでした。その後、2020年からは岩手県(盛岡放送局)へ赴任。アナウンサーとして/個人として、公私ともにどっぷりと東北に関わりながら、豊な自然をはじめとする東北ならではの魅力を五感で堪能しているといいます。

地域と私(=大嶋さん)

このパートでは、大嶋さんが、メディアとして/1人のアナウンサーとして、どのように地域・社会の課題に向き合い・発信して来たのかについて、「被災地のまちづくり」「震災遺族の“心の声”」の2つのテーマをもとにお話をいただきました。

 

① 被災地のまちづくり

大嶋さんの趣味であるランニングを通じた視点から、被災地のまちづくりを取材・リポートした企画。舞台となる岩手県陸前高田市は、震災によって甚大な被害を受けた地域で、震災後、街の中心部は10m以上嵩上げされました。そんな、陸前高田市にて開催されるマラソン大会に毎年参加している菊池さんを主人公に被災地の今を取材。菊池さんは、震災によって消防団として活動していた息子さんを亡くされました。その息子さんが生前毎年参加していたのがこのマラソン大会ということで、菊池さんご自身も毎年参加しているのだと。そして、菊池さんへの取材を通して印象に残った言葉として大嶋さんは、「(被災地の今について、嵩上げ前と嵩上げ後と)二重の町がある感覚」「ハードは整ったが、ここに魂をこめて行かなくてはいけない」を挙げます。震災から10年が経ち、ハードは整って来たもののソフト面については人それぞれの感じ方・想いがあるのだということ。そして、“魂を込めて行かなくてはいけない”という菊池さんの言葉に、まちづくりのヒントを感じたといいます。

 

② 震災遺族の“心の声”

震災によって親を亡くした子どもたちが、その後、どのようなことを考え生きてきたのかをテーマとした企画。仙台赴任中に震災で親を亡くした子どもたち向けの基金のお手伝いを個人的にしていたという縁から生まれたといいます。取材では、中学1年生の時に被災し親を亡くした陸前高田市出身の戸羽さん、千田さんの2人に話を聞きました。震災から10年、時間が1年また1年と経過していく中での自身の親に対する気持ちの変化について、戸羽さんは「どうしても忘れていく。」、千田さんは「忘れることはない。毎日、(亡くなった)母親の写真を見る。」と。同じ、親を亡くすという経験をしていても、その捉え方・感じ方は1人1人違うのだと実感したと大嶋さん。

※この取材の様子は、NHKさんのHPコンテンツとして記録されています。詳細は、下記リンクをご覧ください。

▷いま言葉にしたい気持ち 〜東日本大震災 あの日から〜

https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0025/

 

多くの犠牲者を出した震災。そして、震災から10年が経過し“今”がある。これらの取材活動を通じ、同じ“今”でも、1人1人違った向き合い方・感じ方があり、決して正解があるわけではないと感じたといいます。アナウンサーとして話す中では、「震災から11年です。」「(震災によって親を亡くした子どもたちのことを)震災遺児です。」と、どうしても、時間の都合・分かりやすく伝える都合からひとまとめにしてしまいがちではありますが、簡単に括れない現実があるのだと指摘します。

そして、取材活動の中で出会ったある方の言葉が、大嶋さんを次の行動に駆り立てます。

「大切な家族を失った。もう取り戻すことはできない。では、自分はどうするべきか。それは、これから災害が起きた時、新たな犠牲者を出さないため・1人でも多くの命を救うためにはどうしたらいいか。それを伝えるために生きているのだ。」

仕事だけではなく、個人としても行動をしていきたいとの思いから、岩手大学の社会人講座(地域を支える『防災リーダー』育成プログラム)へ参加。そこで、得た知識・繋がりをもとに、今年の3月に「その時、あなたはどうする?〜地域を担う防災リーダーが果たす役割〜」(主催:岩手大学、NHK盛岡放送局、国土交通省東北地方整備局岩手河川国道事務所、盛岡市上田公民館)と銘打ったイベントを大学や行政機関とも連携をしながら開催したと紹介をいただきました。

地域課題発信のプロセス

最後に、大嶋さんがメディアとして/1人のアナウンサーとして、どのように地域・社会の課題に向き合い・発信してきたかをフローにしてご紹介いただきました。

《Step1:出会い》

出会いの中でもプライベートでの出会いを大切にする。

例)友人の活動(震災によって親を亡くした子どもたち向けの基金)のお手伝いが縁となり実現した震災遺児への取材、岩手大学での学びがきっかけとなった、防災イベント等。

《Step2:気付き》

話を聞こう・話を聞こうとするのではなく、日常の何気ない会話の中での学び・気付きを大切にする。

《Step3:深める》

メディアとして/アナウンサーとしての関わり方・見方だけでなく、1人の人間としての想いを相手と共有し、共感しあえる関係性を築いた上で発信をしていく。

■トークセッション: INTILAQ x NHKで語りあう課題解決の現場

続いて行われたトークセッションでは、「INTILAQ x NHKで語りあう課題解決の現場」をテーマに、NHK仙台拠点放送局 企画総務部(総務・人事)大里さん、INTILAQスタッフの本多、柴田も交え、メディアと支援機関という異なる立場の機関が取り組む実例を通じた課題解決への具体的な1歩の踏み出し方についての議論をキャリアモデルの切り口から深めていきました。

はじめに、キャリアモデル開発センター仙台 東北エリアマネージャーであるINTILAQスタッフ柴田より、“キャリアモデル”についてご紹介しました。

 

“キャリアモデル”とは

「“キャリアモデル”とは、「キャリア」を考える際の概念を指します。「キャリア」は狭義では「仕事・職業上」といった意味合いですが、ここでは「生き方(=人生)」全体を「キャリア」と捉えており、様々な役割や仕事を表現する“キャリアパーツ”を用いて可視化し、「生き方(=人生)」をデザインしていきます。「キャリア=生き方(=人生)」と定義することで、これまではキャリアとして扱われることの少なかった「子育て」や「趣味」といった人生における活動すべてを扱うことが可能になるという特徴があります。」

▷キャリアモデル開発センター仙台HP:https://careermodel-sendai.jp

 

“キャリアモデル”から見る、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」

より、クリアに“キャリアモデル”を理解していくために、2021年5月〜2021年10月にNHKにて放送された連続テレビ小説「おかえりモネ」のヒロインである永浦百音(愛称:モネ)さんの歩みを“キャリアモデル”の視点から4つの段階に分け、読み解いていきました。

 

《永浦百音(愛称:モネ)さんのキャリアモデル vol.1》

宮城県気仙沼市に位置する島出身のモネさん。学生期に震災を経験するも、その際に島にいられなかったことが心の重石となり、就職のタイミングにて、島を離れ隣町に移住。森林組合に就職後、気象予報士との出会いや自身の経験(山での遭難)が契機となり、天気に関心を持つようになります。

《永浦百音(愛称:モネ)さんのキャリアモデル vol.2》

もっと、天気について学びたい・深めたいとの思いから、気象予報士になるべく勉強を開始。ここでの学びが業務にも還元されるという良い相乗効果が生まれます。また、同時に、居候をしている家の住人、サヤカさんとの交流・活動を通じ、地域や森との繋がりと地域や森に対する愛着が醸成されていきます。そして、挑戦の結果、気象予報士試験に合格、悩み・葛藤もありつつも、東京にて就職をする決断をします。

《永浦百音(愛称:モネ)さんのキャリアモデル vol.3》

東京へ移住、気象に関する会社へ勤務しながら、さまざまな関係(居住先の銭湯での出会い、仕事上の出会い、パートナーとの出会いなどなど)を構築していくモネさん。気仙沼在住時の友達と再会しお互い心を開いて話をすることで震災以降抱えていた地元に対するやるせ無い思いが晴れ、地元に戻ることを意識するようになります。

《永浦百音(愛称:モネ)さんのキャリアモデル vol.4》

地元(気仙沼)に帰ることを決断。仕事面では、所属する気象会社の新規事業を立ち上げ。また、地元では、自身のスキルを活かして貢献しつつ、人的付き合いを大切に。さらに、パートナーシップでは、遠距離恋愛にはなるもののお互いの思いを大切にしながら、関係を育んでいく。仕事・地元・パートナーシップとそれぞれの面が相互に関係し合いながら、豊さを求めていきます。

この「おかえりモネ」のモネさんの事例からもわかるように、単に仕事のみならず、暮らしやパートナーシップなど多様な面が組み合わさって“キャリアモデル”は作られていきます。そして、「キャリア=生き方(=人生)」の転換期には、人との出会いや交流、環境的な変化が大きく関わっています。

 

INTILAQ x NHKで語りあう課題解決の現場を“キャリアモデル”から読み解く

ここからは、メディアと支援機関と異なる立場から地域・社会の課題解決に向き合うINTILAQとNHKそれぞれの組織としての向き合い方、そして、それぞれの組織内で活動する個人としての向き合い方を“キャリアモデル”を織り交ぜながら深めていきました。

 

《INTILAQ / プログラムディレクター・本多》

○INTILAQの地域・社会課題との向き合い方

INTILAQは、「起業家育成・支援」を目的とした活動で、特にも、社会課題をビジネスで解決することを目指す社会起業家の育成・支援に取り組んでいます。そのほか、何か新しいチャレンジを主体的に行っていく人たちのことを「ココロイキルヒト」と呼び、小中高大生といった学生から、社会人まで幅広い層のチャレンジを後押ししています。そんな、INTILAQが取り組む地域・社会課題解決に向けた取り組みを2つ紹介してもらいました。

① TOHOKU Social Innovation Accelerator プログラム(通称:SIAプログラム)

社会課題をビジネスによって解決しようとチャレンジをする社会起業家育成プログラムです。社会を少しでも良くしていきたいというあなたの想いを、Vision/Missionという形で言語化し、メンターが伴走しながら持続可能な形で事業計画に落とし込みます。「Vision」「そこまでの道筋」「社会インパクト」を明確化し、実現可能性を高めていくプログラムです。

▷SIAプログラムHP:https://www.social-ignition.net

② 東北プロボノプロジェクト

東北で「誰かのために、地域のために、社会のために」という純粋な想いを持ち、自分自身の心が喜ぶ事を大切にしながら自ら手を動かし、先陣を切る事業者(=ココロイキルヒト)の熱量を体感しながら手触り感のある仕事に取り組むプロボノプロジェクトです。

*プロボノとは?

『プロボノ』とは、ラテン語で「公共善のために」を意味する“pro bono publico”の略語で、自身の職務スキルや知識を活かしたボランティア活動のことです。

▷東北プロボノプロジェクトHP:https://tohoku-probono.mystrikingly.com

○INTILAQプログラムディレクター本多の“キャリアモデル”

INTILAQプログラムディレクターとして働く本多より、自身の“キャリアモデル”を紹介してもらいました。

 

「私は現在、INTILAQのほか経営支援を行うリハビリステーション複合サービス『一般社団法人りぷらす』、経営を行う宮城県丸森町にあるサウナ施設『MARUMORI-SAUNA』の3足のわらじにて活動をしています。『INTILAQ⇆MARUMORI-SAUNA』では、事業開発と経営の学びの共有。『INTILAQ⇆一般社団法人りぷらす』では、ネットワークとナレッジの共有。『一般社団法人りぷらす⇆MARUMORI-SAUNA』では、コミュニティとしてのサウナ活用。と、それぞれがうまく相乗効果を発揮しているなと実感しています。」

《NHK / アナウンサー・大嶋さん》

○NHKの地域・社会課題との向き合い方

NHKでは、前段の基調講演にて大嶋さんにお話をいただいたような、メディアとして現場で地域・社会課題と向き合い発信をすることに加えて、近年は、採用の面においても地域・社会課題との向き合い方を模索しているとのことでNHK仙台拠点放送局 企画総務部(総務・人事)大里さんよりその取り組みについて伺いました。

「NHKはこれまでの公共“放送”から公共“メディア”へと変化(進化)してきています。コンテンツを作り発信することに加えて、多様な媒体が登場してくる中、しっかりと見ていただけるものにしていこうと力を入れています。そして、NHKならではの強みと言えるのが民放各社とは違い皆様の受信料にて成り立っているという点です。たとえ見る人が少なくてもしっかりとフォーカスすべきテーマに向き合って、取り上げて、発信していくことが出来る。(手話ニュースや災害時の障害者のためのサイトなどなど。)そして、社会課題×NHKという面においては、震災遺構の記録保存ですとか、コロナ禍でのオンライン教育コンテンツなど、まさに公共“メディア”として、各種の課題に向き合い取り組みを行っています。」

「そして、NHKがこれから強めていこうとしているのが多様な働き方の導入です。これまでのNHKの働き方では、3年から5年おきに各地の放送局を転勤して回るという働き方でしたが、これからの新たな働き方として『地域職員』という働き方を導入しています。生まれ育った故郷の魅力を発信できる/地域の課題に対して取り組み続けることができる/住み慣れた街で土地勘を活かして働くことができる/育児や介護などライフスタイルの変化にも対応しやすいなどこの働き方ならではの魅力があるのが特徴で、地域のスペシャリストとして活躍を期待しているところです。」

NHK・地域職員についてHP:https://www.nhk.or.jp/saiyo/works/area/

○NHKアナウンサー大嶋さんの“キャリアモデル”

NHK盛岡放送局アナウンサーとして働く大嶋さんより、ご自身の“キャリアモデル”をご紹介いただきました。

 

「私を形成する軸は3つあります。1つ目は、日々の仕事として関わる『NHKアナウンサー』。2つ目は、NHK局内において0から何かを作っていく『01プロデュース』。3つ目は、プライベートの中で関係を築いている『人との出会いと交流』です。プライベートでの『人との出会いと交流』を通じた学びや気づきが、仕事の面でも活きているなと感じます。そして、仕事の面では、単に『NHKアナウンサー』としての立ち回りだけでなく、何かイベントを企画したり、番組を企画したりという『01プロデュース』という立ち回りもさせていただき仕事の幅の広さに充実感を感じます。この辺りはNHKだからこその魅力なのかなと感じています。」

基調講演・トークセッションと、メディアと支援機関の様々な切り口での地域・社会課題との向き合い方についてご紹介をして参りました。また、後段のトークセッションでは、それぞれの組織で働く個々人に焦点を当て“キャリアモデル”の観点から、地域・社会課題との向き合い方についてより1歩踏み込んだ形で見てきました。十人十色、様々な地域・社会課題との向き合い方があるのだということを、本イベントを通して知っていただけたら幸いです。ぜひ、自分ならではの地域・社会課題との向き合い方を探し、チャレンジを。「“トウホク”のためにできることがある!」