ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

〈イベントレポート〉仙台ソーシャルイノベーション・ナイト 社会インパクトの最大化とそれを実現・持続させるビジネスのカタチとは? ~株式会社和えると認定NPO法人マドレボニータの事例より~

日本・世界で活躍する様々なジャンルの社会起業家をお呼びして実施するトークイベント『仙台ソーシャルイノベーションナイト(SSIN)』。今年度初となるイベントテーマは、『社会的インパクト』です。2011年に株式会社和えるを創業し『日本の伝統を次世代につなぐ』を実践してきた矢島里佳さん。2008年にNPO法人マドレボニータを設立し『誰もが産後ケアにアクセスできる社会』づくりを推進、2020年に後進に引き継いで自らは新たなNPO法人シングルマザーズシスターフッドの活動に注力している吉岡マコさん。10年以上にわたり事業を行う中で、ビジョンを中心に据えつつ、経済的な持続性と社会インパクトの拡大を両立してきた2人のゲストをお迎えして実施いたします。お二人の事業やこれまでの歩みを伺いながら、社会的インパクトの最大化とそれを実現・持続させるビジネスのカタチについて議論をしていきました。

■ゲスト

NPO法人シングルマザーズシスターフッド 代表理事、認定NPO法人マドレボニータ 創設者 / 吉岡マコさん

=====
東京大学文学部で身体論を学び、同大学院にて運動生理学を学ぶ。1998年の出産をきっかけに、産後の心身の過酷さを知り、産後ケアプログラムを開発、2008年にNPO法人マドレボニータを設立。産後ケアの普及や啓発に尽力した。2020年に同法人の代表を退きシングルマザーを支援する団体を設立。自身もひとり親経験あり。シングルマザーのセルフケアや自立支援、リーダーシップ開発など活動の幅を広げている。趣味は映画、家庭菜園、コンポスト、ダンス、ゴルフ、ランニング。

株式会社和える 代表取締役 / 矢島里佳さん

=====
1988
年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。職人と伝統の魅力に惹かれ、日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始める。大学4年時の2011年3月、『日本の伝統を次世代につなぐ』株式会社和える創業。幼少期から感性を育む“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナルの日用品を販売。事業承継リブランディング事業で、地域の地場産業を次世代につなぐ仕事に従事。伝統を通じて、ウェルビーイングな生きると働くを実現する、講演やワークショップも展開中。事業拠点は東京、京都、秋田。

■ゲストトーク①:NPO法人シングルマザーズシスターフッド 代表理事、認定NPO法人マドレボニータ 創設者 / 吉岡マコさん

はじめに、NPO法人シングルマザーズシスターフッド 代表理事、認定NPO法人マドレボニータ 創設者の吉岡マコさんより、ご自身の歩みとNPO法人シングルマザーズシスターフッドと認定NPO法人マドレボニータでの取り組みについてお話しいただきました。

 

『認定NPO法人マドレボニータ』と『NPO法人シングルマザーズシスターフッド』の活動 


1998
年の設立以来、20年以上に渡り、産前・産後の女性を対象に運動と対話を行う産前産後ケアプログラムを20都道府県で展開してきた認定NPO法人マドレボニータ。活動の軸となるケアプログラムの他にも、プログラムの指導者を育成する取り組みや、産前・産後に係る調査研究事業など様々な事業を行なっています。

認定NPO法人マドレボニータwebhttps://www.madrebonita.com


同社の創設者である吉岡さんは、活動開始から22年となる2020年に代表を退任、次のリーダーに事業の運営をバトンタッチします。その後、新たに立ち上げたのがNPO法人シングルマザーズシスターフッドでした。


NPO法人シングルマザーズシスターフッドは、シングルマザーの心と体のケアに取り組む団体です。新型コロナウイルスの影響が広がる20204月にオンラインで活動を開始、これまでに34都道府県から約2,000人のシングルマザーの方が活動に参加してきたといいます。

︎NPO法人シングルマザーズシスターフッドwebhttps://www.singlemomssisterhood.org


社会課題解決に向けて 〜ゴールの設定とインパクトの広げ方〜
産前・産後の女性が抱える課題、そして、ひとり親(シングルマザー)が抱える課題と社会問題の解決に向けて事業を行なっている吉岡さん。社会課題解決のゴールの描き方について、「はじめから見えているものではなく、描いていくもの」と指摘します。11人の原体験の中にある“不満や“おかしい!”から問題を定義し、実際にアクションを起こすことで新たな問題や原因が見えてくる。これを繰り返し、課題解決に向けたゴールを描いていく。このプロセスこそが複雑な社会課題を構造化することにつながり、解決に向けたアクションにつながるのだと。
吉岡さん自身も、産前・産後の女性が抱える課題解決のための方策として当初は、“運動を通じた体力の回復が有効だと考えていましたが、活動を行なっていく中で、“運動に加え“対話を通じた精神の安定も重要であることが見えてきたことで、現在のプログラムにつながったといいます。 

 

 

『社会の問題?』 or 『個人の問題?』


社会課題の解決に向けて活動を続けてきたものの、周りの反応は様々。現に、認定NPO法人マドレボニータでの産前・産後の女性が抱える課題解決に向けた取り組みにおいても、「元気なお母さんが何かやっているね。」「これは、家族の問題。」と『個人の問題』として捉えられるケースもあったといいます。


そこで、『社会の問題』として世間に認知・理解を広げていくために取り組んだのが、社会課題の構造化と社会課題の定量化でした。


社会課題の構造化においては、産前・産後の女性が抱える課題を、これまで認知されていた、産前(妊娠中)と産後8週間の産褥期に加え、産後2-6ヶ月間の期間を産後リハビリ期と新たに定義をし、課題のメカニズムを明らかにしていきました。



また、社会課題の定量化に向けては、約1,000人の出産経験のある女性を対象に独自調査を実施。結果、その77%の方が産後うつの一歩手前の状態であったことが判明します。このほかにも、49%の方が乳児虐待の1歩手前の不安を抱えていること、58%の方が産後に離婚したいと思ったことがあることなど、母体の他にも、赤ちゃんと夫婦の問題が浮かび上がってきたといいます。


さらに、吉岡さんは、問題を挙げるだけでは解決に向かわないと指摘します。産後の問題はあくまでもリスクであり、正しく理解し・正しく手を打てば予防できるということを示すべく、同社で行うプログラムの効果(社会的インパクト評価)を測っており、実際に効果が明らかになってきたとのことです。

■ゲストトーク②:株式会社和える 代表取締役 矢島里佳さん

続いて、株式会社和える 代表取締役の矢島里佳さんより、ご自身の歩みと株式会社和えるの取り組みについてお話しいただきました。

 

矢島さんの歩み(起業に至るまで)
学生時代に日本全国の職人さんの元を巡り取材活動を行なっていたという矢島さん。多くの職人さんと出逢い、その職人さんたちが生み出すものを見ていく中で、現在の事業にもつながる多くの気づきがあったといいます。


「その美しさ・機能性に感動するとともに、ただ使えるというのでなく、人の心を優しくしながら、暮らしを便利に・豊かにしてくれるのだと感じました。」


「それと同時に、日本人として生まれてよかったなと思ったんです。けれども、そう思うようになったのは、取材活動を始めてからでした。それまでも同じく日本で暮らしていながら、日本の魅力的な伝統文化・産業のことを知らなかったのです。」


この背景として、義務教育においても日本の伝統文化・産業に触れることはない日本の教育のあり方に問題があること。そして、この問題解決ためには、日本に生まれた子どもたちに日本の伝統文化・産業を自然と伝えていくことが必要と思うようになります。子どもたち向けの伝統産業品を、職人さんと作り届ける仕事はないかと企業探しをするも、そのような企業が見当たらず、自身が起業するという選択をします。


「ジャーナリストとして、自分が人生を通じて伝えたいテーマを探していたら、日本の伝統文化・産業と出逢いました。それを子どもたちに伝えるためには、言葉では難しいんですね。日々の暮らしの中で自然に、何気なく使うものとして、日本の伝統文化・産業を伝えていくというジャーナリズムに挑戦しようと思ったのです。」


「自分との対話とフィールドワークを経て、人生でやりたいことを見つけた結果、就職先がなかったというだけなのです。学生でも、想いと行動力を持ち、伝えていくことを諦めなければ、起業することができたし、気がつけば継続できていた。そんな11年だったなと思います。」

「株式会社和える」の事業について


『日本の伝統を次世代につなぐ』をビジョンに事業を行なっている株式会社和える。同社の名前の“和えるは、「日本の伝統や先人の智慧と、今を生きる私たちの感性・感覚を和える」という想いが込められているのだといいます。


20113月に起業をしてから11年。現在では、10の事業を展開しています。『子ども×伝統』『企業×伝統』『ホテル×伝統』……と様々な事業がある中で、いずれの事業にも共通するのは“何かと伝統を和えているという点です。より多くの人に伝統を伝えたいとの想いから多様な伝統との出逢い方(事業)が生まれてきたのだそう。


株式会社和えるwebhttps://a-eru.co.jp


同社で取り組む事業の1つ『子ども×伝統』(“0歳からの伝統ブランドaeru”)についてご紹介いただきました。

こちらは、出産祝いに日本の伝統を贈るという事業で、『出産お祝いを、「ものを贈るから日本を贈る」に』とのコンセプトのもと展開されています。

また、『経済とはお友達でいたいけれども、経済の奴隷にはならない』をモットーに事業経営をしてきたと矢島さん。であるからこそ、お客様を“消費者と見るのではなく、豊かな暮らしを営む“暮し手となれるようなきっかけを提供しているのだと。


「私たちが取り組んでいる“0歳からの伝統ブランドaeru”事業は、小売業ではなくジャーナリズム業だと捉えています。伝統を伝える媒体がモノなのであって、モノを売ることが目的なのではないということです。」

 

■トークセッション:社会的インパクトと経済的持続性の両立にむけて

その後行われたトークセッションでは、『社会的インパクトと経済的持続性の両立にむけて』をテーマに、お二人の事業やこれまでの歩みを踏まえつつ、社会的インパクトの最大化とそれを実現・持続させるビジネスのカタチについて議論をしていきました。

社会性と経済性の両立に向けて大切なこと

トークセッションのテーマが『社会的インパクトと経済的持続性の両立にむけて』ということで、吉岡さんには「社会性のある事業をどのように持続可能な形で運営してきたのか?」、矢島さんには「“お金のため”ではなく“社会のため”という経営観(vision)をどのように社内外に伝え、軸をブラさず体現してきたのか?」とそれぞれ異なる切り口から、お考え・ご経験を伺いました。

【吉岡さん】
「よくある誤解として、『NPOはなんでもタダでやってくれる』や『NPOは儲けてはいけない』というものがあるんですね。でも、決してそんなことはないんです。持続可能な形で活動を続けていくためにもしっかりと収益を上げて、従業員に対しては給料・ボーナスを払ってという通常の会社と同じような事業活動をしていくわけです。通常の会社と違う点で特徴的なのが受益者負担でないケース(サービスを受ける人がお金を払わないケース)もあるということです。マドレボニータでも、シングルマザーなど受益者負担が難しい方に向けては、個人寄付を原資に基金を作りそれを元手にサービスを提供しています。ですので、収益の構成比としては、受益者負担収益:寄付金:助成・補助金が大体1:1:1が理想ですが、この収益バランスの最適解は、取り組む事業テーマなどによって異なる部分も大きいです。また、社会性のある事業を行っているという中で難しい点は、マドレボニータでは、産前・産後の助成向けケアプログラムを通常有償で提供しているのですが、行政が提供するサービスは無料なので、それと比べられると「高い」と批判されてしまうことがあります。しかし、だからといって軸をブラさず、しっかりと自分達の提供価値に値付けをしていくことが大切であると考えています。」

【矢島さん】
「私たちの場合は、ありがたいことに共感をしていただける方が多いのですが、利益のため・お金のためというのは会社の継続のためには当たり前のことであって、わざわざ掲げることではないですよね、と言うと大概は納得していただけますね。社内でのVision(美しく稼ぐ)の話においては、『日本の伝統が次世代につながる』『三方よし以上』『文化と経済が両輪で育まれる』という3つの軸を、社員1人ひとりに共有するようにしています。」

社会的インパクトの設定の仕方・測り方

 社会的インパクトをしっかり設定し測っていくことが、『個人の課題』ではなく『社会の課題』とし、共感を得ていく上で大切とのお話が吉岡さんよりありました。では、どのように社会的インパクトを設定し測っていけば良いのでしょうか。実際に、取り組んでいく際のPointを伺いました。

【吉岡さん】
「まずは“ロジックモデル”を作るところがスタートだと思います。色々と考え方もweb上に載っていますので、ぜひ、作ってみることをお勧めします。私たちも、それぞれの事業部ごとに“ロジックモデル”を作っていきました。実際にやってみて面白かったのは最終的なアウトカム(事業や組織が最終的に目指す変化・効果)が全て同じだったことです。“ロジックモデル”を作ることで出てきたアウトカムを元に、どのような質問をして数字を取っていけばいいかを時間をかけて考えていきました。調査するときは、100人の回答者を集めることを目標にトライしていただけたらと思います。」

おわりに

最後に、ゲストのお二人から、これからチャレンジをしていこうとしている人に向けてのコメントをいただきました。

【吉岡さん】
「いろいろな人に問いをもらうことが大切だと思います。私自身も社会イノベーター公志園というプログラムに参加していたのですが、そこで、様々な問いをもらい、それに対する答えを自分の言葉で語るということをやったんですよね。自分自身に向き合う作業は自分自身ではできないんだと。他者がいてこそできるのだと実感しています。」

【矢島さん】
「人それぞれ考え方・見方が違うんですよね。ですから、想いを伝えようとしても届かないということも多々あるかと思います。それでも、どうすれば理解・共感してもらえるか考え続けること・自分に向き合い続けることが大切だと思います。そうすることで、1人2人3人……と自分の伝えたいことに共感していただける方が増え、未来の仲間が生まれる。まずは、いろいろな人に自分の言葉で伝える。ここから全てが始まると思います。」

吉岡さんと矢島さん。取り組むテーマは違えど、地域のため・社会のためと熱い想いを感じるお話でした。これも、自分自身に向き合い・他者(社会)に向き合い、問いに正面から答え続けてきたからこその温度感ではないかと感じました。『社会課題解決の糸口は、1人1人の原体験の中にある!』ぜひ、1歩踏み出してみませんか?