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2016年より仙台市主催で開催されている「仙台ソーシャルイノベーションナイト」。今年度は途上国を中心に社会起業家を投資で支援するNPO法人ARUN Seedと連携し、「サステナブルビジネス・シリーズ」と題し、地域・社会課題・ソーシャルビジネスをキーワードに、全6回のシリーズで開催しております。
第2回目となる今回のテーマは「サステナブルファイナンスが拓く地域の未来」です。これまで地域活性化のための金融について様々な取組みをされてきた開智国際大学客員教授/一般社団法人ちいきん会代表理事の新田信行さんをお迎えし、持続可能な地域経済のため、金融・金融機関に期待される役割についてお話いただいたのち、特定非営利活動法人ARUN Seed代表理事の功能聡子さんも加わり、サステナブルファイナンスの意義・役割をテーマに議論していきました。
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■登壇者
開智国際大学客員教授/一般社団法人ちいきん会代表理事 新田信行さん
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みずほ銀行常務執行役員、第一勧業信用組合理事長、同会長を歴任。無担保無保証のコミュニティローンを立ちあげるなど、先駆的な地域金融に取組む。2016年黄綬褒章受章。
著書に、『リレーションシップ・バンキングの未来―ポストコロナ時代の地域金融』(共著、金融財政事情研究会)、『よみがえる金融―協同組織金融機関の未来』(ダイヤモンド社)、『誇りある金融―バリュー・ベース・バンキングの核心』(共著、近代セールス社)など。
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NPO法人ARUN Seed代表理事/ARUN合同会社代表 功能聡子さん
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国際基督教大学、ロンドン政治経済大学院卒。民間企業、アジア学院を経て1995年より10年間カンボジアに在住。NGO、JICA、世界銀行などの業務を通して、復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信し2009年ARUNを設立。日本発のグローバルな社会的投資プラットフォーム構築を目指して活動している。
(主な表彰等実績)
SBIビジネスプランコンテスト優秀賞、エコジャパンカップ2010 環境ビジネスウィメン賞、第三回日経ソーシャルイニシアチブ大賞国際部門賞、国際基督教大学DAY賞(Distinguished Alumni Award)受賞。2016年 「Forbes Japan世界で闘う日本の女性55」に選出。「60分でわかる! SDGs 超入門」(2019年技術評論社)監修、「よくわかる開発学」(2022年ミネルヴァ書房)執筆。
(主な登壇等実績)
朝日新聞主催「SDGs著者に聞く」「イノベーション視点で考えるSDGsとアジア」登壇
日弁連主催「パンデミックとビジネスと人権」登壇
日本能率協会主催「経営革新塾」講師
J WAVE For Our Earth「今さら聞けないSDGsの基礎!」出演
JICA主催 課題別研修「日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナー:ファイナンスの新たな潮流・女性の金融アクセス課題の克服」講師
日本経済新聞社主催「日経ビジネスイノベーションフォーラム:社会的課題解決への多様なアプローチから見るソーシャルビジネス」登壇
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■基調講演:持続可能な地域経済のための金融の役割
はじめに、これまで地域活性化のための金融について様々な取組みをされてきた開智国際大学客員教授/一般社団法人ちいきん会代表理事の新田信行さんより、持続可能な地域経済のため金融・金融機関に期待される役割についてお話いただきました。
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新田さんのこれまでの歩み
大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)へ入行し金融業界でのキャリアをスタートされた新田さん。同行の常務執行役員を経て、2013年、第一勧業信用組合理事長に就任。無担保無保証のコミュニティローンを立ちあげるなど、先駆的な地域金融に取組まれます。その後、会長を経て、2021年に退任。現在は、地域金融・地域創生・中小企業経営の実務家として開智国際大学客員教授、一般社団法人ちいきん会代表理事、eumo最幸顧問、地方創生パートナーズアドバイザー等様々な活動を行なっておられます。
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“サステナブルファイナンス” の世界史
2015年の国連総会で採択された『持続可能な開発目標(SDGs)』。日本においても広く普及しているこの言葉は、持続可能な開発のための17の目標と、169の達成基準、232の指標によって構成されています。そして、このSDGsは、5つのP(PEOPLE(SOCIAL)/PROSPERITY/PLANET(ENVIROMENT)/PEACE/PARTNERSHIP)で表されます。
「“お金”は経済の血液。“金融”は経済の循環器。ソーシャルビジネスにおいて金融の役割はすごく大切と考えている。」と新田さん。
世界において、社会課題の解決・持続可能性が目指されている中、金融界の潮流はどうであったか。金融には、融資・投資・寄付がある中、最初に動きがあったのは投資の分野でした。2006年、『責任投資原則(PRI)』が提唱され、機関投資家の意思決定プロセスに、環境・社会・企業統治を反映させるべきという投資のあり方(ESG投資)が示されます。
その後、2008年のリーマンショックが契機となり、行き過ぎた金融・経済活動への懸念から『価値を大切にする金融(VBB)』という概念が出てきます。そして、VBBを推進していくことを目的とした金融機関の集まり『GABV(The Global Alliance for Banking on Values)』が2009年に発足。GABVは、持続可能な経済・社会・環境の発展に対して融資をするという使命を共有する世界各国69の銀行及び共同組織金融機関で構成されています。(日本からは、第一勧業信用組合が唯一参画。)
そして、2015年の『持続可能な開発目標(SDGs)』採択。その4年後の2019年に遅れ馳せながら融資の分野にも動きがあり、『責任銀行原則(PRB)』が提唱されました。
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日本と“サステナブルファイナンス”
2000年代はじめから持続可能性を求める動きが出てきた世界の金融界。では、日本の金融界はどうであったか。
新田さんは「日本で議論が活発化してきたのはここ5年。」といいます。
とはいえ、これまで全く動きがなかったのかと言うとそうではありません。日本では1980年代終わりのバブル崩壊の煽りを受け1990年代に金融危機が到来。多数の金融機関が破綻に追い込まれます。そのような中、金融庁は中小・地域金融機関再生と持続可能性の確保に向け『リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム』を公表。しかし、取り組みの普及にはバラつきがありました。
その後、2015年『持続可能な開発目標(SDGs)』採択を経て、2018年頃から金融庁『金融行政とSDGs』/環境省『ESG 金融懇談会』など徐々に動きが活発化。資金仲介(金融支援)にとどまらない企業価値向上、さらには地域社会のため(本業支援)にも寄与していこうという潮流が広がっていきます。
「このような日本の金融界の動きをリードしてきたのは、信用金庫や信用組合など地方の協同組織金融機関である。」と新田さん。そもそも、協同組織金融機関の多くの経営理念は『地域の持続的繁栄』であり、職員/お客様/地域社会等、様々なコミュニティとの絆を大切にしようというマインドが備わっていたと指摘します。
また、地方創生・地方活性化という文脈からも金融の重要性が出てきているといいます。地方では、人口減少、地域経済衰退など様々な社会課題が顕在化してきています。そのような中、多くの既存企業や社会起業家(=経済-自助)が地域のため・社会のためと活動をし、行政(=政治-公助)においても様々な取り組みがなされてきました。しかしながら、経済-自助・政治-公助だけでは限界があり、地域のつながりや絆、支え合いといった社会-共助を後押ししていくような金融(社会的金融)が求められているのです。
そして、この5年ほど。徐々にではありますが、社会的金融に係る動きが広がってきているとのこと。既存金融機関としては、公的金融機関である日本政策金融公庫や労働金庫、協同組織金融機関である信用金庫や信用組合が。また、新たな動きとして、マイクロファイナンスを取り扱うグラミン日本の設立や寄付と社会的投資を担う日本ファンドレイジング協会、CAMPFIREやREADYFORなどのクラウドファンディング支援、ふるさと納税や企業版ふるさと納税、地域通貨などなど。
「まだまだ、日本は捨てたもんじゃない!」のだと。
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■トークセッション:サステナブルファイナンスの意義・役割
その後のトークセッションでは、特定非営利活動法人ARUN Seed代表理事の功能聡子さんも加わり、サステナブルファイナンスの意義・役割をテーマに議論していきました。
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『未来志向で、開かれた、人とコミュニティの金融』にかける想い
新田さんの著書『よみがえる金融―協同組織金融機関の未来(ダイヤモンド社)』の中に登場する『未来志向で、開かれた、人とコミュニティの金融』という言葉。大手銀行出身の新田さんがこのような考えを持たれるに至ったワケを伺いました。
「元々、金融機関に入ったのも金融が社会的・公共的使命をもつものだという思いからだったんです。高度経済成長からバブルの崩壊、リーマンショックと40年以上の現場経験の中で、“お金”は人を幸せにするためにあるはずなのに“お金”で多くの人が苦しむのはおかしいのではないかという違和感を持っていました。そして、大切なのは“お金”より“人”であると思うようになりました。“お金”は道具なのだと。そして、バンカーは“お金”を美しく使う人を探してくる人なのだと考えています。」
「また、日本は元来、地域コミュニティが豊かな国でした。助け合いやつながりが脈々と受け継がれていたわけです。高度成長の拝金主義で、バランスが崩れていた。それを金融の力で本来の姿に戻したい。だから、私の著書のタイトルは“よみがえる”としているんです。」
「そして、“未来志向”でありたい。政治も経済も大切。しかしそれだけではうまくいかない。社会が大切だなと。今、日本で弱くなっている社会ですが、社会の弱さは閉鎖的であり過去を見てしまいがちであるということにあると考えています。社会的金融に対するアンチテーゼとして“未来志向で、開かれた金融”を提起したというわけです。」
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お金を美しく使える人を探すための目利きのポイントとは?
「バンカーとは、“お金”を美しく使う人を探してくる人」というお話がありましたが、“お金”を美しく使う人を探すための目利きポイントとはどのようなものなのでしょうか。
「最近、耳にする機会が増えてきましたが“パーパス(purpose)”だと言ってきました。日本的な言葉で表すなら“志”ですね。私はこれまでの40数年間、何千何万と社長さんとお話をしてきました。お金を儲けるためだけを志向する会社は時代の流れの中で無くなっていると感じます。なぜ、この事業をやろうとしたのか?/なぜ、この事業をやっているのか?ここに、ただお金というだけでなく、地域のため・社会のためという“志”があるということが大切にしているポイントですね。」
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日本における『社会的連帯経済*』の現状と課題
持続可能な経済社会を志向する『社会的連帯経済(SSE)』を目指す動きが世界で生まれています。日本における現状と課題についてお話いただきました。
「日本の戦後復興・高度経済成長の成功要因として大きいのが協同組織金融機関や事業協同組合の存在と思います。これが、日本型の『社会的連帯経済』ともいえるものであったのではないかと。そして、現在の状況・課題というのは、これら日本の戦後を支えてきた協同組織金融機関や事業協同組合が形骸化し金属疲労を起こしている状態ではないかと見ています。そうした中で、第一勧業信用組合が始めたのが、開かれた金融機関としての『志の連携』です。国内50以上の金融機関と業務連携をし『社会的連帯経済』の概念に則った取り組みを進めてきています。また、一般社団法人ちいきん会ではSNS上で全国2600人が繋がっています。志同じくする方々とこれから一層進めていかなくてはならない。そのように考えています。」
*社会的連帯経済(SSE)とは
行き過ぎた利潤の追求による弊害をなくし、民主的な運営により、人間や環境にとって持続可能な経済社会をつくることを目的とする概念のこと。資本主義でも共産主義でもなく、それらに代わる新たな経済の枠組みとして注目され、世界ではラテン系の欧州諸国や南米などを中心に発展している。「社会的経済」と「連帯経済」を組み合わせた言葉で、Social and Solidarity Economyの頭文字を取って「SSE」とも言われる。
引用:IDEAS FOR GOOD(https://ideasforgood.jp/glossary/sse/)
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―最後に、仙台・東北において、社会起業家の支援を続けてきた民間と行政の立場から、弊社竹川と仙台市の白川さんより質問をさせていただきました。
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社会起業家を取り巻く環境#01 =“金融”の実態=
[竹 川]
「地域のため・社会のためと活動を行う社会起業家が震災以降数多く生まれてきました。しかしながら、“想い”があるけど“お金”が回ってこないという現状もまだまだあると感じています。新田さんのお考えをお聞かせください。」
[新田さん]
「一番は、毛細血管的金融機関が足りていないことにあるんじゃないかと。元々540行あった信用組合も今では140行になってしまっているわけです。毛細血管を再生する必要は強く感じています。ただ、昔の形に戻すべきかという点については議論が必要であろうと思います。今は、クラウドファンディングなど多種多様な金融の形(お金の流れ)が生まれていますしね。また、借りるだけが全てでないということも意識する必要があります。0⇨1フェーズでは寄付やエクイティが必要で、1⇨2,3フェーズでデットが必要になるわけです。起業家さんにとっては、寄付もエクイティもデットもフェーズに応じて必要であるけれども金融側が細分化されすぎている課題もあります。私たちに必要な金融を私たちの手でデザインしていくことも必要ではないかなと感じています。」
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社会起業家を取り巻く環境#02 =“公助”のあり方=
[白川さん]
「地方には多くの課題があり、その中で多くの社会起業家が生まれてきています。仙台市としてもこうした起業家の皆さんの支援をしてきているところですが、支え手としての“公助”のあり方についてどのようにお考えでしょうか。」
[新田さん]
「自助・公助・共助がバラバラではだめで相互に繋がっていくべきであると思います。なんでも補助金で解決ではなく、ここからは自助(ここからは共助)と3本が一緒に動いていくことが必要であるということです。そして、社会的な新しい動きは地方から起こしていくべきだと考えています。東北の中心地である仙台市の動きにはとても期待しています。」
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自助・公助・共助が連携・協力することで、ステキな東北の青写真を共に描いていくことができる!そう感じた時間でした。仙台・東北の青写真を共に描いていきましょう!
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■今後のイベントについて
2016年より仙台市主催で開催されている「仙台ソーシャルイノベーションナイト」。この度、途上国を中心に社会起業家を投資で支援する特定非営利活動法人ARUN Seedと連携し、「サステナブルビジネス・シリーズ」と題し、「地域」、「社会課題」、「ソーシャルビジネス」をキーワードに、全6回のシリーズをお届けしております。今後開催する3〜6回目イベントについてご紹介します。
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#03 2022年12月05日(月)「誰もが活躍する社会をイノベーションで築く」
#04 2023年01月31日(火)「ビジネスとサステナビリティ」
#05 2023年2月「社会的投資という新しい地平」
#06 2023年3月「SDGsビジネスはどこに向かうのか」
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各イベント情報は随時公開していきますのでぜひご参加ください!