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2016年より仙台市主催で開催されている「仙台ソーシャルイノベーションナイト」。今年度は途上国を中心に社会起業家を投資で支援するNPO法人ARUN Seedと連携し、「サステナブルビジネス・シリーズ」と題し、地域・社会課題・ソーシャルビジネスをキーワードに、全6回のシリーズで開催しております。
第4回目となる今回のテーマは「ビジネスと人権」です。株式会社オウルズコンサルティンググループ プリンシパルの大久保明日奈さんをお迎えし、企業人として理解すべき「ビジネスと人権」についてお話しいただきました。その後のトークセッションでは、特定非営利活動法人ARUN Seed代表理事の功能聡子さんも加わり、「ビジネスと人権」に係るグローバルな動向と、日本企業に期待される役割などについて、熱く議論していきました。
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■登壇者
株式会社オウルズコンサルティンググループ プリンシパル/一般社団法人エシカル協会 理事 大久保明日奈さん
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金融機関、ITアドバイザリーファーム、デロイトトーマツコンサルティング合同会社を経て現職。株式会社オウルズコンサルティンググループ在籍。慶應義塾大学経済学部卒業。英国ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)都市開発経済学修士課程修了。Cambridge Institute for Sustainability Leadership (CISL) Business Sustainability Management コース修了。コンサルタントして、ビジネス戦略、サステナビリティ戦略をテーマとするプロジェクトの実績担当。環境政策(カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー等)、サステナビリティ情報開示、サプライチェーンにおける人権対応など、サステナビリティ分野における広範なテーマに対する知見を有する。労働・人権分野の国際規格「SA8000」基礎監査人コース修了。ISO30414 リードコンサルタント/アセッサー。
(主な執筆・講演実績)
– 『エシカル白書2022-2023』共同執筆(山川出版社)
– 『すべての企業人のためのビジネスと人権入門』(共著:日経BP社)
– オンラインメディアJBpress「地政学としての気候変動」連載
– 経済産業省/中小企業庁主催「ビジネスと人権」セミナー講師
– 他執筆や講演実績多数
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■モデレーター
NPO法人ARUN Seed代表理事/ARUN合同会社代表 功能聡子さん
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国際基督教大学、ロンドン政治経済大学院卒。民間企業、アジア学院を経て1995年より10年間カンボジアに在住。NGO、JICA、世界銀行などの業務を通して、復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信し2009年ARUNを設立。日本発のグローバルな社会的投資プラットフォーム構築を目指して活動している。
(主な表彰等実績)
SBIビジネスプランコンテスト優秀賞、エコジャパンカップ2010 環境ビジネスウィメン賞、第三回日経ソーシャルイニシアチブ大賞国際部門賞、国際基督教大学DAY賞(Distinguished Alumni Award)受賞。2016年 「Forbes Japan世界で闘う日本の女性55」に選出。「60分でわかる! SDGs 超入門」(2019年技術評論社)監修、「よくわかる開発学」(2022年ミネルヴァ書房)執筆。
(主な登壇等実績)
朝日新聞主催「SDGs著者に聞く」「イノベーション視点で考えるSDGsとアジア」登壇
日弁連主催「パンデミックとビジネスと人権」登壇
日本能率協会主催「経営革新塾」講師
J WAVE For Our Earth「今さら聞けないSDGsの基礎!」出演
JICA主催 課題別研修「日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナー:ファイナンスの新たな潮流・女性の金融アクセス課題の克服」講師
日本経済新聞社主催「日経ビジネスイノベーションフォーラム:社会的課題解決への多様なアプローチから見るソーシャルビジネス」登壇
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■基調講演:ソーシャルインパクトの土台としての「ビジネスと人権」
はじめに、株式会社オウルズコンサルティンググループの大久保明日奈さんより『ソーシャルインパクトの土台としての「ビジネスと人権」』をテーマにお話いただきました。
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大久保さんのこれまでの歩み
大久保さんは、金融機関やITコンサル、経営コンサル企業を経て、現在は株式会社オウルズコンサルティンググループにて活動をされています。同社は、およそ3年前の2020年5月に創業。サステナビリティやビジネスと人権、経済安全保障といったテーマに係るコンサルティング事業を展開しています。
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なぜ、今、「ビジネスと人権」なのか?
1948年、国際連合による世界人権宣言に始まりこの10年でルール化が加速してきた「ビジネスと人権」。中でも2011年に国際連合で採択されたビジネスと人権に関する指導原則が大きな役割を果たします。ここでは、人権の尊重が企業の責任であること。特定の企業のみならずあらゆる企業に適用されること。が明記されました。また、企業の責任範囲については、自社内で起こる直接的な問題はもちろんのこと、取引先への要求や下請け企業で起こる問題など間接的な問題も対象であると定義されました。
一方、日本における「ビジネスと人権」に関するルール化の動きが出てきたのはここ数年で、今後より一層動きが本格化していく段階だそう。事実、有価証券報告書で「人権」に係る記載は急増。2018年からの2年で2倍以上となっています。これは、企業が「人権」問題をリスクと捉えるようになってきたことの現れだと大久保さんは指摘します。
では、ビジネスにおける人権リスクとは何なのか。人権リスクと一言に言っても、ハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラ等)や差別、強制労働など多岐に渡るほか、先述のビジネスと人権に関する指導原則にもある通り自社のみならず自社を取り巻くサプライチェーンも含むリスクを考えるべきであるといいます。
そして、これら人権リスクがビジネスに及ぼす影響は甚大であると大久保さん。業績への影響としては売上の低下(不買運動による消費者購買の減少など)やコストの増大(法令違反による罰金や訴訟による賠償金など)。企業価値への影響としては、投資撤退やブランド価値の毀損。などが挙げられるとのこと。
具体例として、NGOにアジアの委託工場における日常的な児童労働実態が告発されたことが、不買運動に発展しその後5年間で1兆4,000億円以上のマイナス影響が生じた米国アパレルメーカーの事例(1997年)をご紹介いただきました。
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企業に求められる人権対応のあり方と可能性
企業における人権対応への取り組みについて、先述のビジネスと人権に関する指導原則では、人権方針の策定という“方針によるコミットメント”。人権リスクの特定と是正・改善の取り組みをする“人権デュー・ディリジェンス・プロセス”。リスクヘッジのための “救済(苦情処理メカニズムの整理)”の3つが挙げられています。
リスク(守り)として語られることが多い人権対応ですが、攻めの人権対応の可能性もあると大久保さんは提起します。現在、100兆円市場の環境ビジネスも1990年代は単なるコストという評価でした。1990年代後半からのルール形成(京都議定書(1997年)、パリ協定(2015年))を経て、市場が拡大。環境コンサルティングや環境教育、エコ家電、エコカーなどの市場が誕生しました。その歴史を準えれば、ルール形成が進む人権対応も市場が拡大する可能性が十分にあるといいます。
終わりに、「人権ビジネス」開発のための10の発想法をご教授いただきました。
例えば、自社の市場に存在する「マイノリティ」の生きづらさの解消や、NPO・NGOが発信する今後の「人権アジェンダ」への貢献などの発想が新しい「人権ビジネス」の創出に繋がるのではないかということです。
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■トークセッション
その後のトークセッションでは、特定非営利活動法人ARUN Seed代表理事の功能聡子さんも加わり、「ビジネスと人権」に係るグローバルな動向と、日本企業に期待される役割などについて議論していきました。
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人権対応のファーストステップとは
その必要性を認識しながらも、何から始めればいいのかというはじめの1歩、そして、その後のステップにハードルを感じる人権対応。企業が取り組む人権対応のはじめの1歩について伺いました。
「大きく2つのパターンがあると考えています。1つは、人権方針の策定から始めるというもの。もう1つは、自社にどんな負の影響があるのかという人権リスク・アセスメントから始めるというものです。正解はないものの、弊社の支援では後者のパターンが多いです。まず、人権リスク・アセスメントでリスクの全体像を掴むことで、どういった人権方針を作っていくのかがクリアになりますし、実際に予防措置を実施していくに当たっても、どういった教育・研修をしていくべきかや社内体制の整備の方向性が考えやすくなるかと思います。」
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“制度”から“風土”へ昇華するために
育休制度など制度は整えられているものの、なかなか使われないというケースも多々あります。制度を整えるだけでなく、その制度が社会の風土として根ざしていくためにはという観点からお話を伺いました。
「まさに人権対応も方針を策定するだけでなく動かしてこそのものであるわけで、風土づくりは大切です。実行性の観点からは、“社内の風土”と“社会の風土”の2つの風土づくりが求められると考えています。“社内の風土”という点では、経営陣だけでなく社員1人1人が理解を醸成していくこと。“社会の風土”という点では、自社だけではなく自社を取り巻くサプライチェーンも含めて理解を得ていく必要があります。」
「社内・社会の風土づくりとして、注目している事例としては、Netflix社などが取り組むリスペクトトレーニングというものがあります。映画業界では、監督が権限を持つ業界構造があり、現場の俳優さん/女優さんの人権侵害が深刻でありました。役職や職種を越えて相手のことリスペクトする文化を業界内や現場に作っていく。そのためのトレーニングプログラムとして日本でも導入が進んできているところです。」
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―仙台・東北で、社会起業家支援に取り組む支援者として弊社竹川が、行政として仙台市経済局の稲舟さんがそれぞれの立場から質問をしました。
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社会起業家がとるべき人権対応カタチ
[竹川]
「社会起業家支援者として、人権問題はまさに1つの社会課題であるなとお話を聞いておりました。一方で、社会起業家もしくは地域の中小企業における人権対応については、その必要性について理解をしていながらも、方針の策定と実行に人的・金銭的リソースが必要ということもあり難しさもあるように感じました。社会起業家や地域の中小企業における人権対応あり方についてお聞かせください。」
[大久保さん]
「ご指摘のような、中小企業の皆様の現状については、私どもの活動の中でもよくご意見をいただくところです。しかし、だからといって何もできないというものではないとも考えています。経済産業省では2022年9月に人権対応に係るガイドラインを策定したわけですが、今後、実務家向けの資料も公開予定です。人権方針についても公開されている他企業の先行事例を参考にしていただくことができますし、1社で抱え込まずに複数社で集まって勉強会や方針策定をしていくという可能性もあると考えています。」
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起業家の葛藤 〜 事業成長か ↔ 人権対応か 〜
[稲舟さん]
「今後、人権対応のルール化が進むことでより良い労働環境が作られていくのだろうと一労働者として有難いなと感じながらお話を伺っていました。起業家支援を行政の立場として行うなかで、様々な起業家の方のお話を聞く機会があるわけですが、中には、事業成長のためにもっともっと働きたいが、人権対応への社会の目が厳しさを増す中で難しさがある。長時間働くこと=魅力がない企業と捉えられてしまうところもあり辛い。という起業家の方もいらっしゃいました。人権対応の動きとは逆行するようなお話になってしまいますが、こうした“働きたい権利”に関してのお考えをお聞かせください。」
[大久保さん]
「弊社の中でもこうした“働きたい権利”(=成長機会)に関する議論はよくあるところです。ここで大切だと考えているのが、労働者自身が、自身の働き方を選択できるのかという点です。スタートアップにJOINしたのだから長時間働かなくてはいけないと強制することはもちろんあってはならないことです。また、自身でよりたくさん働くということを選択するような方は頑張り過ぎてしまう傾向もあります。会社としては、たとえ従業員の主体性に基づく選択であったとしても身体的・精神的健康リスクも考慮した上で管理をしていく仕組みやコミュニケーションが必要であると思います。」
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―最後に大久保さんからメッセージをいただきました。
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「私たち日本人は完璧にしなければと考えがちですが、はじめから無理に完璧にしようとしすぎないことです。できることから始めること。そして、より良い労働環境やサプライヤーとの関係づくりのためには何が必要かを考え動いていくことが大切と思います。」
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「人権対応」というと何ができるだろうと難しく考えてしまいがちですが、“今日できることから始める!”という姿勢が大切なのだと感じる時間でした。今回の大久保さんのお話のように人権とは?そのリスクと可能性とは?を知るこのことがはじめの1歩ではないでしょうか。
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■今後のイベントについて
2016年より仙台市主催で開催されている「仙台ソーシャルイノベーションナイト」。この度、途上国を中心に社会起業家を投資で支援する特定非営利活動法人ARUN Seedと連携し、「サステナブルビジネス・シリーズ」と題し、「地域」、「社会課題」、「ソーシャルビジネス」をキーワードに、全6回のシリーズをお届けしております。今後開催するイベントについてご紹介します。
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#05 2023年2月10日(金)「地域におけるインパクト投資の可能性を考える」
#06 2023年3月14 日(火)「『ココロイキルヒト』たちの未来予想図」
#特別編 2023年3月24 日(金)「日本発!世界で挑戦するソーシャルスタートアップのカタチとは」
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各イベント情報は随時公開していきますのでぜひご参加ください!