仙台ソーシャルイノベーション・ナイト
「サーキュラーエコノミー」の理論と実践 〜全国、そして東北の実例から学ぶ〜
日本・世界で活躍する様々なジャンルの社会起業家をお呼びして実施するトークイベント「仙台ソーシャルイノベーションナイト(SSIN)」。今月のテーマは、『サーキュラーエコノミー』です。2015年、EUの政策パッケージから世界的に広まった『サーキュラーエコノミー』。和訳して「循環経済」とも呼び、近年、日本国内でも注目を集めています。今回のイベントでは、株式会社fogの大山さんにその概念や背景についてご説明いただいた上で、東北の実践事例として「発酵で楽しい社会を!」を掲げ、奥州を拠点に独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環させる社会の構築を目指す、株式会社ファーメンステーションの酒井さんにご登壇いただき、設立のきっかけや描く未来について伺いました。人間と自然が共存する、そんな豊かな社会を目指して、共に学び、共に考え、共に行動していくきっかけになれば幸いです。
■ゲスト
▷株式会社ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈さん
国際基督教大学卒業。富士銀行、ドイツ証券などに勤務。発酵技術に興味を持ち、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科に入学、09年3月卒業。同年、株式会社ファーメンステーション設立。研究テーマは未利用資源からのエタノール製造、未利用資源の有効活用技術の開発。好きな微生物は麹菌。好きな発酵飲料はビール。現職にて、第1回Japan BeautyTech Awards特別賞、第3回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション特別賞「地域イノベーション賞」、リバネステックプランター アグリテックグランプリ 2018 新日鉄住金エンジニアリング賞、JR東日本スタートアップ 2018 青森市長賞、ソーシャルプロダクツアワード2021など、受賞多数。(HP:https://fermenstation.co.jp/)
▷株式会社fog 代表取締役/一般社団法人530 理事 大山貴子さん
仙台生まれ。2006年に渡米し、2011年に米ボストン・サフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事。卒業後はニューヨークに拠点を移し、新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2015年に帰国。 日本における食の安全や環境面での取組みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードロスを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、サーキュラーエコノミーの実現を目的としたデザインコンサルティング会社、株式会社fogを創業。「循環をつくる”( )”をつくる会社」として、サーキュラーエコノミー及び循環型社会の実装を、人材・組織開発から行う。10月末にキッチンやリビングラボを兼ね備えた施設「循環する日常をえらぶラボ “élab”(えらぼ)」を東京都台東区にオープン。武蔵野美術大学政策デザインラボ主催「サーキュラーエコノミーとデザイン」、京都大学学び舎など、講座講師など多数。(HP:https://fog.co.jp/)
■ゲストトーク①:『サーキュラーエコノミー』とは?
はじめに、株式会社fogの大山さんより、『サーキュラーエコノミー』の概念やその時代背景・変遷についてご説明をいただきました。
株式会社fogの取り組み
株式会社fogは、「サーキュラー変革の起点は人である。人を起点にした循環型社会の共創」をビジョンに、循環型社会の実現に向けたビジョンデザインや普及を目的にしたコミュニケーションや実践の伴走、意識や行動を促すプロセスの設計などの事業を展開。『サーキュラーエコノミー』の実現を目指し事業を行なっています。
『サーキュラーエコノミー』とは?
『サーキュラーエコノミー(Circular economy)』とは、限りある資源をサプライチェーンの川上から川下まで、できる限りロスなく長期間使っていく循環型経済モデル。従来の直線型経済モデル(資源を調達し、作って、使って、捨てるモデル)からの変革への機運が高まってきているとのこと。
では、なぜ、『サーキュラーエコノミー』が注目されるようになったのでしょうか。
この社会の潮流の変遷について、大山さんは、環境・社会・経済の3要素の位置付けの変化を指摘。「これまで、環境・社会・経済は独立した存在と位置付けられてきました。しかし、近年では、経済活動は環境・社会を前提としていて、事業活動全体が環境・社会と両立していなければならない。」と、環境・社会・経済が完全に重なり合う位置付けとなってきているといいます。
そして、変遷のもう一つの側面として、環境や社会への影響考慮に賛成をしながら利益も追求する「ニュー資本主義」の存在を挙げます。この概念が投資行動に、そして、企業活動にと広がってきているという現状があるとのこと。
東北で『サーキュラーエコノミー』型ビジネスを実現させるポイント
最後に、ここ東北において『サーキュラーエコノミー』を実現するためのヒントを。『サーキュラーエコノミー』型ビジネスを実現させるポイントとして、「地域資源の利活用」「自立分散型の生産拠点」「未来洞察」「市民・企業横断」をご提示いただきました。
■ゲストトーク②:東北の実例から学ぶ 〜発酵で楽しい社会を!ファーメンステーションの歩みと未来〜
後半のトークでは、『サーキュラーエコノミー』型ビジネスの東北での実践事例として「発酵で楽しい社会を!」を掲げ、奥州を拠点に独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環させる社会の構築を目指す、株式会社ファーメンステーションの酒井さんにご登壇いただき、設立のきっかけや描く未来について伺いました。
これまでの軌跡 〜事業の立ち上げに至るまで〜
代表の酒井さんは金融業界出身。元々、社会的意義のある事をしたいと思いながら仕事をしていたといいます。海外での勤務などを通じ、事業性だけでなく社会性もある企業・団体の取り組みに触れる中、生ゴミからバイオ燃料を作る東京農業大学の取り組みに触れ、未利用資源を活用する技術を学びたいと同大に入学。その後、研究室での繋がりから岩手県奥州市(旧胆沢町)での耕作放棄地を活用しバイオ燃料づくりを行う実証実験事業に参画。しかし、燃料づくりは採算が取れず困難な状況となりました。
「燃料としての活用は難しくても、化粧品であれば可能性があるのではないか。」
そのように考えた、酒井さんは、事業を引き継ぎ、株式会社ファーメンステーションを2009年に設立。10年以上に渡り、未利用資源を活用したアルコール精製及び商品開発事業を行なってこられました。
株式会社ファーメンステーションのサーキュラーな取り組み
ファーメンステーション(FERMENSTATION)は、日本語で“発酵の駅”を意味します。
同社の事業を一言でいうと「技術の会社」とのこと。未利用資源からアルコールを精製し、自社商品や企業コラボ商品として化粧品などの商材を世に送り出しています。
未利用資源として最も多く活用しているお米は、耕作放棄地を活用して栽培しているといいます。そして、その社会性の幅は、耕作放棄地の活用だけではありません。ゴミゼロの取り組みとして、アルコール精製で残ったカスは鶏や牛の餌に。カスを食べた鶏や牛のフンは肥料として田んぼに戻すなど、サーキュラーな取り組みモデルを構築・実践されています。
「“発酵の駅”のような存在になりたいと考えました。FERMENSTATIONを通過すると、必ずいいことがある、前より良くなる、そういう存在になれたら。」と酒井さん。創業時からの変わらぬ想いで事業を行なっておられます。
その後、大山さんも交え『サーキュラーエコノミー』の可能性や東北の可能性について議論を深めていきました。
『サーキュラーエコノミー』 〜世間の見方・社会の潮流〜
近年、SDGsやESGなどとともに耳にすることが多くなった『サーキュラーエコノミー』ですが、その実態とはどのようなものなのでしょうか。
【酒井さん】
「最初に事業にご理解を頂けたのは3,4年前です。その時が最初に資金調達ができた時でした。しかし、当時はまだまだ懐疑的な見方が多く、“事業が成長するイメージが湧かない”、“スケールする気配がない”、“NPOだ”など色々と言われてきました。より広くご理解をいただけるようになったと感じられたのは、去年くらいからですかね。ただ、それも、個々人や企業・団体のマインドが変わったというより社会に求められているからという印象を受けることが多いです。その中でも、関心はあったがどうすればいいかわからなかったという方が私たちの取り組みにご一緒いただけるという嬉しいケースもあります。」
【大山さん】
「変化という意味では都内の企業において動きがあると見ています。ただ、これも経営陣と各事業部門との間で企業の目標や戦略に関する連携がなされていて経営戦略として位置付けられているケースはまだまだ少数です。多くは、規制・顧客ニーズ対応として捉えている企業、とにもかくにもサーキュラーというスタンスだと感じています。」
『サーキュラーエコノミー』を東北で実践していくために
まだまだ、理解・実践が進んでいない『サーキュラーエコノミー』。東北において、ビジネスとして実践をしていく可能性についてお二人に尋ねました。
【酒井さん】
(未利用資源の見つけ方について)
「私たちの場合はアルコールを作るという目的があるので糖質がある素材であることという前提条件がつきます。そして、化粧品の原料として使っておかしくないものである必要もあります。生ゴミでもアルコールは作れるわけですが、生ゴミのアルコールよりりんごのアルコールの方がいいですよね。また、発酵というのは単に未利用資源の活用というだけでなく、アップサイクルでもあるんです。例えば、リンゴの搾りかすから、香り高いアルコールが抽出できたり。この観点も大切にしています。」
(数値化の必要性について)
「会社として、未利用資源の活用、そして、それを社会に広めていくことを目指しているということもあり、数値化をしていくことは理解・納得をしていただくという観点においてとても重要視しています。例えば、製品やサービスに対するライフサイクルアセスメントやどれだけゴミを削減できたのかなどについてはきちんと測れるようにしています。」
【大山さん】
「前段のご説明の中で『サーキュラーエコノミー』型ビジネスを実現させるポイントについてお話しをしました。どれも大切なことなのですが、例えば「地域資源の利活用」の場合、東北はかなりの可能性があると見ています。海・山・川といった豊な自然環境や長年に渡り培われてきた歴史・伝統・文化など潜在的な価値のある地域資源がたくさんあります。そして、『サーキュラーエコノミー』という言葉が注目されがちですが、その遥かに前から実践されている循環型の取り組みも足元を見ればたくさんあるということも見逃してはならないと思います。」
おわりに
最後に、参加者の方々に向けてのメッセージをいただきました。
【大山さん】
「『サーキュラーエコノミー』を突き詰めるとゴミを出してはいけないだとか、そもそも人間が暮らしているのも良くないという話も見えてきてしまうわけですが、そうではないと思っています。『サーキュラーエコノミー』は私たちがこれからも持続的に豊かに暮らしていくための1つの手法であってゴールではないという観点が大切です。みなさんと一緒に取り組んでいければと思います。」
【酒井さん】
「やってみてわかることというのがたくさんあると思います。まずはやってみる。アクションをしてみることが大切かなと。そして、東北は本当に資源が豊富です。都会にはない手触り感のあるものが東北にはあるし、実践できる現場を持つことが出来るというのは東北の魅力だと思います。ぜひ、一緒にアクションをしましょう!」
『サーキュラーエコノミー』実践の可能性が多くある、ここ東北から。持続可能な社会を、暮らしを、1人1人が作っていきましょう。