ACTIVITY INTRODUCTION

活動紹介

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活動紹介

2022.03.29

〈イベントレポート〉仙台ソーシャルイノベーション・ナイト 社会課題先進地域から生まれる新しい地域ビジネスのカタチとは? ~島根県石見銀山と宮城県石巻市の事例より~

 

日本・世界で活躍する様々なジャンルの社会起業家をお呼びして実施するトークイベント「仙台ソーシャルイノベーションナイト(SSIN)」。今月のテーマは、『新しい地域ビジネス』です。東日本大震災から10年が経過しました。東北地方では震災を契機に人口減少や高齢化といった社会課題が顕在化してきています。そして、これらの社会課題は東北だけのものではありません。日本各地においても同じように人口減少や高齢化など様々な社会課題が存在します。今回のイベントでは、島根県大田市大森町・宮城県石巻市蛤浜と社会課題の最先端地域で事業を行っているおふたりをゲストにお迎えし、取り組みの軌跡や今後のVisionについてお話をいただきます、また、その後のトークセッションでは、前段の話を踏まえつつ「持続可能な地方のビジネスの新たなカタチ」を探っていきました。

 

■ゲスト

株式会社石見銀山生活観光研究所 代表取締役 松場忠さん

1984年佐賀県生まれ、島根県大田市在住。文化服装学院シューズデザイン科卒業。卒業後、シューズメーカーに就職、その後独立し、友人とともにアパレルブランドの立ち上げを行う。

2010年、妻の両親が経営する石見銀山生活文化研究所に入社、飲食事業の立上げを担当。
2012年、石見銀山のある大森町へ移住し、群言堂ブランドの広報、マーケティングを担当。
現在は、大森町に特化した生活観光事業を立ち上げ、地域の持つ可能性を掘り起こし、事業を展開している。

一般社団法人はまのね 代表理事/小漁師 亀山貴一さん

石巻市蛤浜で生まれ育ち、宮城県水産高校の教師となる。震災によって壊滅的な被害を受けた蛤浜を再生するため、2012年3月に蛤浜再生プロジェクトを立ち上げる。2013年3月に高校教師を辞め、cafeはまぐり堂をオープン。2014年4月に一般社団法人はまのねを立ち上げ、牡鹿半島の持続可能な集落づくりを目的としてはまぐり堂を中心にマリンアクティビティー、漁業・林業・狩猟の6次産業化や体験・学びの場づくりに取り組んでいる。

 

■ゲストトーク①: 株式会社石見銀山生活観光研究所の事例 @島根県大田市大森町

 

はじめに、株式会社石見銀山生活観光研究所の松場さんより、島根県大田市大森町における同社の取り組みについてお話いただきました。

自己紹介&会社紹介

佐賀県出身の松場さん。靴職人として働いたのち結婚を機に奥様のご両親が経営する群言堂へ入社。飲食店立ち上げや広報業務などを経て、2019年に株式会社石見銀山生活観光研究所を設立されました。同社は、島根県大田市大森町に所在する株式会社石見銀山群言堂グループのグループ会社で地域観光業・宿泊業(暮らす宿 他郷阿部家)を展開。同社グループ会社として、このほか、グループの中心事業であるアパレル等の製造小売業を展開する株式会社石見銀山生活文化研究所があります。

なぜ、「群言堂」グループが観光業を展開するのか

観光とは、「その国や地域に存在する“光(よいところ)”を観ること」だといいます。その上で、松場さんは、大森町の“光(よいところ)”について大森町住民憲章を挙げます。この憲章は、石見銀山の世界遺産登録によって年間80万人もの観光客が訪れることで町の人達の暮らしが脅かされる事態(=オーバーツーリズムの課題)を受けた危機意識の中から策定されたものです。

「暮らし(=生活文化)があるから世界に誇れる町であり、この町の暮らしそのものこそが世界に観せるべき光なのだと。」

こうしたストーリーから、町の暮らしを観光という文脈から切り取り観せるべく株式会社石見銀山生活観光研究所は設立されました。

そして、大森町を拠点に地域観光業を手掛けることは、群言堂グループ全体としても2つの点で大きな意味があるといいます。

① 大森町に根ざした地域の企業として

群言堂はライフスタイルブランドとして「根のある暮らし」という生き方を大切にしています。企業としてのスタンスも同様で、大森町に根ざし、地域と共に事業を展開してきた中で自社だけが成長すればいいというのではなく地域と共生していく必要があること。


② 独自性を持ったブランドであるために

メイン事業であるアパレル事業(製造小売業)のブランディングの観点において、「商品を通して、大森町の風景や営みを伝えていきたい」という想いをもっていること。

今後の展望 〜地域一体型経営の模索〜

2007年の世界遺産登録から10年が経過、一時80万人を超えた観光客は減少し登録以前の水準に戻ります。これにより、大森町住民憲章が制定されたきっかけともなったオーバーツーリズムの課題は解決したものの地域の基幹産業となっていた観光産業は大きなダメージを受けます。

このような状況の中で生まれたのが「地域一体型経営」の取り組みです。2018年、地域の観光関連組織・団体が連携する形で石見銀山代官所跡周辺域活性化協議会を設立。また、2019年には、株式会社石見銀山群言堂グループのグループ会社として株式会社石見銀山生活観光研究所が設立され、この2団体が中心となり、地域内交通の見直し事業(ゴルフカートを活用した実証事業等)や石見銀山ウォーキングミュージアム(地域を1つのミュージアムと捉え地域に点在する観光拠点の周遊を促す事業)を実施してきました。

▷石見銀山代官所跡周辺域活性化協議会HP:https://iwamiginzan.jp

▷株式会社石見銀山生活観光研究所(株式会社石見銀山群言堂グループ)HP:https://www.gungendo.co.jp

最後に、地域・会社の今後の展望についてもお話をいただきました。

<地域の展望 〜石見銀山代官所跡周辺域活性化協議会〜>

地域観光振興に係る事業展開をしてきた石見銀山代官所跡周辺域活性化協議会を発展させ、地域課題解決に向けた組織とすべくコンソーシアム発足を予定で、「石見銀山みらいコンソーシアム」との名称にて2022年中に法人化に向け動いていくとのこと。観光で稼げるモデルを作りつつ、その収益を防災、教育、福祉、移住・定住などのソーシャル事業に活用し、持続可能な地域モデルを創っていくといいます。

 

<会社の展望 〜株式会社石見銀山生活観光研究所〜>

コンソーシアム設立を含めた持続可能な地域モデル創りに向け、株式会社石見銀山生活観光研究所としても新たな取り組みとして、株式会社ゼブラ アンド カンパニー(*1)との協業(資金調達・経営支援受入)を決定。地域・協業先と共に「温かいお金の流れ方」を模索していくと松場さん。

 

*1 「ゼブラ企業」と「株式会社ゼブラ アンド カンパニー」について

「ゼブラ企業」とは自社の成長を第一の優先順位とするのではなく、より良い社会の形成に寄与することを第一とし、持続可能な範囲での成長を追求している企業を表す言葉として使われています。「株式会社ゼブラ アンド カンパニー」では、そんなゼブラ企業に対し、投資や経営支援事業を通じて支援する事業を展開しています。

▷株式会社ゼブラ アンド カンパニーHP:https://www.zebrasand.co.jp

 

■ゲストトーク②: 一般社団法人はまのねの事例 @宮城県石巻市蛤浜

 

続いて、一般社団法人はまのねの亀山さんより、宮城県石巻市蛤浜における同社の取り組みについてお話いただきました。

亀山さんと蛤浜の軌跡 =前編=

自身の仕事について、小漁師(沿岸で季節ごとに変わる魚を獲る漁師)と豊かな浜の暮らしを次世代へつなぐための場づくり・ことづくり・人づくりと話す亀山さんですが、元々は水産高校の先生でした。転機となったのは、2011年3月11日。東日本大震災によって浜は津波被害に遭ってしまいます。9世帯あった集落は2世帯5人(うち4人が60代以上)に。

『生まれ育ったふるさとを残したい、浜の人の力になりたい』

そんな想いから、持続可能な浜を作ることを目指し「蛤浜プロジェクト」を立ち上げます。まずは地域内外の人が集まれる場を作ろうと、2013年、自宅を改装したカフェ「Cafe はまぐり浜」を開業。2014年には一般社団法人はまのねを設立。カフェ事業も軌道に乗り、自然体験やBBQ、各種イベント・WS等、交流人口と雇用の拡大に向け積極的な事業展開をした結果、交流人口は15,000人/年にまで増えたといいます。しかし、毎日、朝から夜まで多くの人が訪れるという暮らしの急激な変化は、地域の住民の方とハレーションを生んでしまいます。

「『生まれ育ったふるさとを残したい、浜の人の力になりたい』と頑張って活動し、成果も上げてきたにもかかわらず、住民の方とハレーションを生む結果となってしまった。このことによって、自分たちは何のために活動をやっているのか?自分たちが大事にしたいものは何か?を改めて考えさせられました。」と亀山さん。

そして、“自分たちが大切にしたいもの”として、7つの項目(人のつながり・暮らしと文化・生産者の思い・自然と共生する・手間暇をかけて丁寧にする・創る、生み出す・ワクワクすることをやる)を設定。さらに、先のVisionとして、人・経済・自然環境の3つの循環の構築を通じた半径100mのサスティナビリティを描き、活動の再設計をしていきました。

亀山さんと蛤浜の軌跡 =後編=

この新たなVisionのもと、亀山さんは仲間と既存事業見直しと地域課題発の新規事業づくりを進めていきます。既存事業見直しとしては、カフェ営業を完全予約制かつ週3日営業へ。さらに、新規にオンラインショップを立ち上げ、仲間の個性を活かした各種の商品(魚介類・お菓子・アクセサリ)販売を開始。地域課題発の新規事業づくりでは、農作物被害が拡大していた獣害問題を事業化。担い手育成事業やシェア解体施設の設置、革・角製品の製作・販売を実施。さらには、地域の山林の荒廃問題から、自伐林業を通じた山林管理体制構築と木材の販路づくり(木のオーナー制、オーダー家具製作・販売)に取り組んでこられました。

豊かな浜の暮らしを未来へつなぐ 〜蛤浜のこれからのカタチ〜

様々な壁を乗り越え、新たな事業・仕組みを模索されてきた亀山さん。亀山さんが描くこれからの組織のカタチ、これからの蛤浜のカタチとはどういったものでしょうか。

組織のあり方について、1人1人がvisionを描きありたい姿を実現できる場づくりをしていくことが必要といいます。1人1人の特性を活かした事業をつくっていく。そして、1つの組織が事業を集約して動くのではなく、それぞれの事業が独立して動く(=船団方式)をとることで昨今のコロナ禍など時代の波に柔軟に対応が出来る小回りの効く体制をとれているのだそう。

さらに、今後の地域を考えた時には、「立つ人を増やす」ことが大切との考えのもと、起業塾の塾長として、01が出来るクリエイティブ人材を増やす取り組みも行なっているとのこと。

このように、組織内外にて、「立つ人を増やす」ことで、地域において、経済的・文化的価値を創っていけるようになっていくのだといいます。

そして、最後に、蛤浜が持続可能で豊かな地域となるためのこれからのカタチの実現に向けて大切にされている2つの要素をご教授いただきました。

① 蛤浜を外に開き人の流れをつくる

② ありたい姿を実現できる場をつくる

■トークセッション: 新しい地域ビジネスのカタチを探る

これまでのトーク内容も踏まえつつ『新しい地域ビジネスのカタチを探る』とのテーマでトークセッションを行いました。

組織内の幸福度を高めるために 〜『お金』と『想い』のキョリ感とは?〜

松場さんのトークでは「地域の伝統と文化を維持することが“幸せ”」、亀山さんのトークでは「身の丈に合った“幸せ”」と、お二方共に、ご自身・組織の“幸せ”に関するお話がありました。様々な価値観の人がいる組織において、1人1人の“幸せ”の追求に必要なものとは何でしょうか。『お金』と『想い』のキョリ感に焦点を当て、お考えを伺いました。

 

【松場さん】

「私たちの会社には現在200名の社員がいます。創業期においては『想い』の部分に比重を置いて走ってくることができましたが、規模が大きくなってきた現在の会社の状況を鑑みると『想い』だけでは難しくなってきているフェーズに来たと感じています。コロナ禍においてもベースアップを行ってきました。『お金』という部分でも仕組みを整えつつ、いかに『想い』の部分を追求していける状況を創っていくのかという考えで動いています。」

【亀山さん】

「私たちは組織が大きくなった時に価値観の違いという壁にぶつかりました。もっともっとお金を稼ぎたいメンバーと、お金はほどほどに暮らしを丁寧につくっていきたいメンバーとに分かれていったんです。それぞれの“幸せ”を追求しようと考えた時にこの価値観を合わせるのは難しいとの結論になり、現在の1人が1つの事業を独立して回していく船団方式を取るようになったという経緯があります。また、少し話が変わりますが、“幸せ”には時間という要素も重要と考えています。例えば、カフェの場合、最初750円だった単価が今は2,000円な訳で。これは、モノからコトにという価値転換なのですが、時間を短くしても以前と同じだけ稼ぐことができるようになります。そして、これに、さらに、学びという価値を加えていけたらと考えています。最終的には、いかに当たり前で価値を生み出していけるかというところを模索しています。」

『地域』との関係性の築き方

松場さんと亀山さん。お二方の『想い』の中には、「こんな地域にしていきたい!」という地域の青写真が描かれています。地域の人・組織との良好な関係性を築き取り組みを進めていくために必要なこと、気をつけていることはどういったことなのでしょうか。

【亀山さん】

「謙虚になるべきだと感じています。価値観の押し付けは良くないですよね。これまでと全く新しいことをやっていくということは、これまでのやり方・あり方を否定することにもなりうるのだと。私自身、一度地域との関係性を崩してしまいましたが、信頼を取り戻すには5年も6年もかかりました。そして、このコロナ禍において地域の人の生業や暮らしに触れる機会が増えたのですが、実際に触れてみると教わることが本当に多いんですね。これまでは地域のためにやってあげるという考え方もありましたが、教わるという姿勢が重要と学ばさせていただきました。Visionを描いて巻き込んでいくということも大切ですが、謙虚に教わるという姿勢も大切なんだという考えです。」

【松場さん】

「私は、何か新しいことをやっているという認識はないんです。これまでの地域での議論の中で共通目標となっていたことについてなんとか形になるようにコーディネートしているという認識です。会社を作った背景も大森町住民憲章ですしね。そして、新しいことを新しいことをとやっていくとどうしてもハレーションが起きてしまうんですよね。自分がやりたいことだけをやっていても周りを巻き込むことは難しいですが、地域の人のやりたいことであれば周りの人を巻き込んで行きやすいと感じています。」

地域でチャレンジをするプレイヤーを増やすために大切なこととは?

最後にお二人から、地域でチャレンジをするプレイヤーの芽を増やしていくために行政側として必要なこと。そして、これから地域でチャレンジしていきたい人に向けてのコメントをいただきました。

【亀山さん】

(地域でチャレンジをするプレイヤーの芽を増やしていくために行政側に必要なこと)

「行政の方には信じて見守っていただけたらと思います。私たちのような小さな地域の小さな組織が目指していく方向性は、ともすると社会のメインストリームからズレていたりもするんですよね。最初から手厚くサポートするというのではなく、想い・本気度を見た上で共感をしていただき、そして、伴走していただけると嬉しいなと思います。」

(これから地域でチャレンジしていきたい人に)

「いや、最近の若い人たちはすごいですよ。色々と批判する前にやっちゃっていますものね。むしろ、私たち世代がもっともっと若い観点を取り入れながら・学びながら頑張っていかねばなと感じています。頑張ります(笑い)」

【松場さん】

(地域でチャレンジをするプレイヤーの芽を増やしていくために行政側に必要なこと)

「結局は、人ですよね。行政がではなく、行政とプレイヤーのお互いが人同士として気軽に話が出来る関係性を築いていく。そうすると仲間に、共感者になって一緒に走っていくことができるのだと考えています。」

(これから地域でチャレンジしていきたい人に)

「『楽しそうに勝手にやる』が良いと思います。最初のお膳立てはどうしたって自分で動かないといけないんですよね。どうせやるんだったら、自分がワクワクすることを勝手にやってみることそして笑っていられることが大切なんだろうなと。そして、今の20代は、例えリアルな場での繋がりが弱かったとしても、SNSなどバーチャルな場で繋がり・笑い合える関係性が生まれているからこそアクションが早いのだろうと感じています。」

自分がワクワクすることを、『楽しそうに勝手にやる』。これが、地域のチャレンジの芽となり、この芽が色々な場所で芽吹くことで、持続可能な地域・持続可能なビジネスのカタチが象られていくのだと感じた時間でした。1人1人がワクワクする東北の青写真を描いていきましょう。