日本・世界で活躍する様々なジャンルの社会起業家をお呼びして実施するトークイベント「仙台ソーシャルイノベーションナイト(SSIN)」。今月のテーマは、『サステナブルなビジネス』です。人間・経済・環境に優しいサステナブルな社会実現のためには、社会・地域と調和を取りつつ持続する『サステナブルなビジネス』の存在が不可欠です。そして、社会課題・地域課題を継続的に解決する『サステナブルなビジネス』を創り出し、そして継続させる根源には、社会起業家たちの「個」の想いやその強さがあるのだと思います。そして、その「個」も、それぞれに、想いを継続していく意味で、サステナブルでなくてはなりません。
今回のイベントでは、20年以上に渡りグローバルに復興・開発支援、そして、社会起業家支援に取り組んでこられたARUN合同会社 代表、認定NPO法人 ARUN Seed 代表理事の功能聡子さんをお招きし、同社の取り組み・今後の展望をお伺いしつつ、グローバルな視点から「サステナブル」への理解を一緒に深めていきました。
■ゲスト
ARUN合同会社 代表、認定NPO法人 ARUN Seed 代表理事/功能聡子さん
国際基督教大学、ロンドン政治経済大学院卒。民間企業、アジア学院を経て1995年より10年間カンボジアに在住。NGO、JICA、世界銀行などの業務を通して、復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信しARUNを設立。日本発のグローバルな社会的投資プラットフォーム構築を目指して活動している。 SBIビジネスプランコンテスト優秀賞、エコジャパンカップ2010 環境ビジネスウィメン賞、第三回日経ソーシャルイニシアチブ大賞国際部門賞、国際基督教大学DAY賞(Distinguished Alumni Award)受賞。2016年 「Forbes Japan世界で闘う日本の女性55」に選出。「60分でわかる! SDGs 超入門」(2019年技術評論社)監修。その他取材・講演多数。
認定NPO法人ARUN Seed HP:https://arunseed.jp/
■基調講演:サステナブルを掘り下げる
はじめに、ARUN合同会社 代表、認定NPO法人 ARUN Seed 代表理事の功能さんより、ご自身の歩みやカンボジアやインドなどで展開している社会起業家支援事業と事例についてお話いただきました。
功能さんのこれまでの歩み
1995年にカンボジアに赴任し10年間に渡り、国際協力に係る事業(農村の保健医療事業
などなど)に従事されてこられた功能さん。赴任当時のカンボジアは、1970年代からつづいてきたカンボジア内戦が終焉を迎え民主的な社会となっていく初期でした。国内人材の多くは国際機関やNGOへ就職、戦後復興に向けた立て直しが行われていきました。それから10年、2005年頃になると、カンボジアの戦後復興は進みビジネスの動きが活発に。人材の動きも戦後復興期の国際機関やNGOからビジネスセクター(通信、銀行、不動産など)へと変移していきました。そして、時を同じくして、社会課題をビジネスの力で解決をしていこうとする“社会起業家”の萌芽が見られるようになってきたのだそう。こうした“社会起業家”の存在を見ていく中で、これまで国際協力(開発・援助)に携わる中で抱いてきた「支援をしても現地の人の自律心や主体性が生まれてこないというジレンマ」に対して、ビジネスの力(=“社会起業家”支援のアプローチ)が効果的なのではないかと可能性を感じたと功能さん。2009年、ARUNを設立します。
ARUNの取り組みについて
“ARUN”はカンボジア語で「夜明け」を意味する言葉。ここに、起業家の希望とエネルギーを擬え名付けたといいます。そして、「地球上のどこに生まれた人も、ひとりひとりの才能を発揮できる社会」をvisionに掲げ、途上国の社会起業家と日本の投資家(企業・個人)とを繋ぐ社会的投資プラットフォーム構築を目指し活動を行っています。これまでの投資実績としては、151万ドルの投資を実行。投資先は、カンボジアのほかインドネシア、インド、バングラデシュの4カ国10社に及びます。
そして、これらの投資は、「CSI Challenge」ビジネスコンペ形式にて投資家を巻き込みながら投資先を選んでいく手法をとっているとのこと。実際の事例として、2020年度に行われた「CSI Challenge」のファイナリストである6企業・団体をご紹介いただきました。(2020年度は、26カ国104社が応募)
(1)Du Anyam [インドネシア]
農村部の女性の貧困問題解決を目指すビジネス。農村部の女性たちが従来から制作をしていた手工芸品の質を向上させ、アプリを通じて顧客と農村部の女性たちを繋ぎ、販売及び生産管理のプラットフォームを構築することを目指す。
(2)Greenovator [ミャンマー]
国のGDPの3割を占める農業の、生産性向上に向けた専門家人材及びマーケットやマイクロファイナンス機関とのアクセスが不十分であるという課題解決を、モバイル普及が農村部においても進んでいるという強みを踏まえてモバイルアプリケーションによって目指す。
(3)Sirona Hygiene Private Limited [インド]
インドの女性が抱える衛生問題解決を目指す企業。立ったままトイレをすることが出来る商品や月経カップなどを展開している。
(4)Mosabi [シエラレオネ]
現地住民の金融リテラシーに課題を感じ創業。オンライン金融教育サービスを展開。さらには、利用ユーザーと金融機関を繋ぎ、信用評価を支援すること金融機関とのアクセスを円滑化する取り組みも行っている。
(5)Janitri Innovations Private Limited [インド]
医療領域でのイノベーションを模索する企業。具体的には、妊婦の健康状態を遠隔診療するための商品を開発。医療機関に向けて提供をしている。
(6)GGateway for Outsourcing Information Technology [パレスチナガザ地区]
同国内の複雑な情勢により、若者の就労が難しい状況となっているという課題解決を目指す企業。同地区の若者に対して、ITスキルの教育から職業機会の提供まで一気通貫で行っている。
『サステナブルなビジネス』とは?/『サステナブルなビジネス』の成功とは?
トークの最後にまとめとして、「社会的企業が行うビジネスの7つの特徴」「目指すべき6つのエンドゲーム(最終目標)」をご提示いただきました。
<社会的企業が行うビジネスの7つの特徴>
(1)サステナビリティをミッションとした事業
→持続可能な社会をミッションに据えビジネスを組み立てていること
(2)対象は社会的に弱い立場に置かれている人
→儲かりそうな属性ではなく女性・農民・難民など社会的弱者を対象としていること
(3)巨大なマーケット
→とはいえ、マーケットは巨大であること
(4)デジタルイノベーション
→複雑かつ難解な課題に対してデジタルを効果的に活用していること
(5)ビジネスモデルのイノベーション
→多様なステイクホルダーとの連携などを通じたビジネスモデル自体の工夫がなされていること
(6)インパクトの創出
→社会的なインパクトをどのように創出していくのかを考えられていること
(7)伴走支援
→伴走支援が活きる形でのビジネスであること
<目指すべき6つのエンドゲーム(最終目標)>
(1)オープンソース化
(2)レプリケーション(複製・再現)
(3)行政施策への導入
(4)商業化
(5)ミッションの達成
(6)サービスの継続
*出典:これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー ベストセレクション10)
■トークセッション:サステナブルな「ビジネス」とサステナブルな「個」
続いて行われたトークセッションでは、「サステナブルな「ビジネス」とサステナブルな「個」」をテーマに、グローバルな視点からサステナブルなビジネスと個への理解を一緒に深めていきました。
社会起業家が社会課題に向き合う要因(きっかけ)
東北の社会起業家の多くは、震災という大きな原体験がベースとなり社会課題に向き合う場合が多々あります。功能さんが支援をされているアジアをはじめとする海外の社会起業家が社会課題に向き合う要因とは何なのでしょうか?
「「CSI Challenge」の参加起業家を見ていると、「その地域の出身で故郷が抱える課題を解決しようと起業する方」と「別な地域出身または外国出身であるもののその地域で働き暮らす中で芽生えた課題意識をベースに起業する方」がいます。私たちが選考をする際には、こうした“Why”の部分に加えて、社会課題の重要度や社会課題の解像度も重視してみています。」
社会起業家に求めるものとは
ゲストトークでは、「社会的企業が行うビジネスの7つの特徴」をご提示いただきました。より具体的に投資を実行する際に、社会起業家に求める要素についてお聞きをしました。
「私たちは、最初から高いビジネスレベルを求めるということはしていません。重要なのは“異文化”を受け入れる受容性があるか/一緒に課題解決に向けて動いていくチームとなれるかという点です。投資をして終わりの関係性ではなく、投資を通じて一緒に事業を創っていく・課題を解決していくということを大切にしていますのでこの点は特に重要視しています。」
社会起業家の成功のカタチ/ARUNの見据える投資のカタチ
世界各国にて、様々な分野の社会起業家と関わりを持つ功能さん。そんな功能さんが考える社会起業家の成功とは?そして、ARUNの今後の展望について伺いました。
「社会起業家という概念はこの10年でかなり普及してきました。そして社会起業家を支援する側も増えてきています。私たちとしても改めて原点に立ち返るべき時なのではないかと考えているんです。社会への影響力を考えていくと、社会起業家は、経済的インパクトも社会的インパクトもMAXにすべきだと行き着くのですが、それだけではないのではないかと。これに当てはまらなくても社会に必要とされるカタチは様々あるわけですよね。多様なあり方が認められる・受け入れられるために/規模か質かの議論で終わらせないカタチを模索していきたいと思います。」
おわりに
最後に、これから、社会起業をはじめとして新たなチャレンジをしようとしている方に向けてのメッセージをいただきました。
「私自身、カンボジアで仕事をしていた時には起業をしようなんて全く思っていなかったんですね。“現場”で活動を続ける中で社会起業家に出会ったことが私を後押ししてくれて今に至っています。「何かしたい。けど、何をしたらいいのかよく分からない」という方もいらっしゃると思いますが、心配する必要は全くないです。そうした方は、ぜひとも、“現場”の中での出会いを大切にしていただきたいです。そして、“現場”で種を見つけ、育ていく中で、水をくれる人・肥料をくれる人のサポートを受けながら花が咲くのではないかなと考えています。ぜひ、チャレンジをしていただけたらと思います。今日は、ありがとうございました。」
“現場”に出る→種を見つける→種を育てる(+水や肥料をもらう)→花を咲かせる
まずは、“現場”に出る!この小さな1歩が大きな課題解決につながるのだと。
ここ東北にも様々な社会課題が存在します。ぜひ、“現場”に出て、挑戦の種を見つけましょう。